ノ湖

ノ湖

南スーダン共和国に広がる広大なスッド湿地の北部地域に位置する湖です。ノ湖（Lake No）は、アフリカ大陸を縦断し、人類文明のゆりかごとも称されるナイル川の主要な源流の一つが形成される重要な地点として知られています。具体的には、西から流れてくるバハル・エル＝ガザル川（Bahr el-Ghazal）と、南側から北上してきたバハル・アル＝ジャバル川（Bahr al-Jabal）という、ナイル川水系における二つの主要な支流が合流する地点に形成されました。この合流によって、ナイル川の上流部がここから明確な流れとして姿を現します。

ノ湖が位置するスッド湿地は、その広大さにおいて世界有数の規模を誇ります。雨季には特にその面積を大きく広げ、この地域特有の豊かな生態系を育んでいます。ノ湖もまた、この湿地環境の一部として、乾季と雨季で水位が大きく変動する特性を持っています。複雑に入り組んだ水路と広大な植生が特徴的なこの湿地帯は、多くの野生動物や鳥類の生息地であると同時に、周辺に暮らす人々の生活基盤ともなっています。

このノ湖は、ナイル川の一部である「白ナイル（White Nile）」の名の由来になった場所であると広く考えられています。ノ湖を通過したナイル川の水が、特に雨季になるとその様相を大きく変えることから、この名が生まれたとされています。雨季には、上流から大量の土砂や植物の破片といった様々な浮遊物が湖や河川に流れ込みます。これらの浮遊物が混ざり合うことによって、水の色が白っぽい灰色に濁って見えたり、水面が泡立ったりする現象が起こります。この白く濁り、泡立つように見える水の流れが、ノ湖より下流のナイル川が「白ナイル」と呼ばれるようになった直接的なきっかけとされているのです。一方、エチオピア高原を源流とする青ナイル（Blue Nile）は、比較的水が澄んでいることが多いことから対照的な名で呼ばれています。白ナイルは、最終的にスーダンの首都ハルツームで青ナイルと合流し、下流へと続いていきます。

ノ湖とその周辺地域には、古くから多くの人々が暮らしてきました。この湿地帯の環境に適応した生活を送っていると考えられているのは、主にディンカ族（Dinka people）とヌエル族（Nuer people）といった人々です。彼らはナイル系民族に属し、伝統的に牧畜や漁労を中心に生計を立ててきました。広大な湿地と河川は、彼らの生活にとって不可欠な資源であり、その文化や社会構造もこの自然環境と深く結びついています。彼らの居住地域は、ノ湖の南や西、そしてナイル川沿いに広がっています。

このように、ノ湖は単なる湖ではなく、南スーダンの地理において、またナイル川水系全体においても非常に重要な結節点です。二つの主要な川が集まる場所であり、白ナイルという名の起源ともなった場所。そして、独特の湿地環境と、それに適応して暮らす人々の生活が存在する場所として、地理学的にも文化的にも興味深い地域と言えます。ナイル川の壮大な旅は、まさにこのノ湖のあたりから本格的に始まると言っても過言ではありません。

もう一度検索