スッド

スッドとは

スッド（英語：The Sudd）は、南スーダンの国土中央部、白ナイル川の流域に位置する、地球上で最も広大な湿地帯の一つです。マラカル市の南方からモンガラ市の北方にかけて、南北およそ400キロメートル、東西約300キロメートルにわたり広がっています。この地域は、アラビア語で「山の海」（バハル・アル＝ジャバル）とも呼ばれますが、その名称は湿地の広大さを示しています。名称である「スッド」は、アラビア語で「障壁」や「障害物」を意味する言葉に由来しており、これはこの湿地が多数の浮島や複雑に入り組んだ水路によって、船舶の航行を著しく困難にし、白ナイル川の上流と下流を分断してきた歴史的な事実を反映しています。航行を妨げるこれらの浮島そのものも「スッド」と呼ばれることがあります。

広大な湿地の様相

スッドの総面積は季節によって大きく変動します。乾季には約3万平方キロメートルですが、雨季にはナイル川の増水と激しい降雨により、その面積は最大約13万平方キロメートルにも及び、広大な低地の大部分が冠水し、陸路での移動は困難になります。アフリカ大陸では、ニジェール内陸デルタと並ぶ最大級の湿地であり、2006年には、その一部である57,000平方キロメートルが国際的に重要な湿地としてラムサール条約に登録されました。

この湿地は、年間を通して水に覆われている本流沿いのエリアと、雨季に一時的に冠水する周辺のサバンナ地帯に大きく分けられます。サバンナはさらに、木々の少ない広大な草原と、高木や灌木が点在する草原に分類されます。

スッドの土壌は、水を自然にろ過し、水量を安定させるスポンジのような役割を果たす、非常に肥沃で粘り気のある黒綿土が広く分布しています。この土壌は、冠水時には車両や歩行者の通行を妨げ、乾季になって乾燥すると石のように硬くなり、やはり交通の障害となります。

この地域はまた、スーダンにとって最大級の石油埋蔵地帯でもあり、資源開発に伴う環境汚染への懸念も存在しています。

水と生態系の営み

スッドは、水の循環において非常に重要な役割を担っています。洪水時にはその広がりが水の勢いを和らげ、バハル・アル＝ジャバル川から運ばれてくる土砂や堆積物を留めるフィルターとしても機能します。しかし、この広大な水面からは大量の水が蒸発によって失われます。推定では、白ナイル川がスッドに流入する水量の約55パーセントがここで蒸発すると言われています。水位は季節的な増水に応じて変動し、最大で1.5メートルほど上昇することがあります。周辺の同じ緯度の地域と比較すると、スッドの年間降水量は55～65センチメートルと比較的少ないですが、これは湿地の東西に存在する地形が気候に影響を与えている一因とされています。

白ナイル川の流れはスッドに到達すると、まるで網の目のように無数の水路に分かれて広がります。バハル・エル＝ガザル川、バハル・アル＝アラブ川、ソバト川といった白ナイル川の支流が、この湿地の北側の境界線を形成しています。水面には、上流から流れてきた水草やパピルスなどが互いに絡み合い、ときには直径数百メートルにも及ぶ巨大な浮島を形成して漂っています。ホテイソウやパピルスなどの浮き草も水面を広く覆い、これらの浮島や浮き草は船舶の航行にとって常に大きな障害となってきました。歴史的には、この物理的な障壁が南スーダンを、北スーダンやエジプト、さらには19世紀にアフリカ大陸への進出を目指したヨーロッパ諸国から地理的に隔てる要因ともなりました。ナイル川の源流を探る探検の時代には、多くの探検隊がスッドで行く手を阻まれ、あるいは退路を断たれて、飢えや風土病によって命を落とした悲劇的な記録も残っています。

スッドの湿地帯は、驚くほど多様な生物相を育んでいます。湿地に生息する動物たちは、季節による水位の変動に合わせて巧みに移動しながら暮らしています。乾季になり水位が下がると、アンテロープ、ガゼル、ゾウといった内陸部に暮らす草食動物たちが、水と餌を求めて湿地に集まってきます。一方、魚類は、雨季の増水によって冠水した広大な平野部に拡散し、そこで繁殖を行います。また、スッドは渡り鳥にとって重要な越冬地でもあり、モモイロペリカン、カンムリヅル、シュバシコウ、ハシグロクロハラアジサシなどが確認されています。

この広大な湿地の周辺地域には、ヌエル族、ディンカ族、シルック族といったナイル系の人々が古くから居住しています。彼らの生活は、スッドの自然環境と深く結びついており、農耕、牧畜、漁労、狩猟採集といった伝統的な営みを通じて、この湿地の恵みを享受しながら暮らしています。

開発の試みと課題：ジョングレイ運河計画

20世紀の初頭、当時スーダンを共同統治していたイギリスとエジプトは、スッドで大量に蒸発するナイル川の水量を有効利用するため、運河の建設を検討しました。そして1978年、ジョングレイ州のボル市からマラカル市南部、白ナイル川とソバト川の合流点付近を結ぶ「ジョングレイ運河」の建設が具体的に計画されました。しかし、この計画は地元住民の十分な合意を得ることなく進められたため、南スーダンでは強い反対運動が巻き起こりました。さらに、環境問題への関心が高まり始めた1980年代には、ヨーロッパでもこの大規模な開発計画の是非について議論が活発化しました。1983年に第二次スーダン内戦が勃発すると、ジョングレイ運河の建設現場はスーダン人民解放軍（SPLM）の攻撃目標となり、全工程の約70パーセントを掘削した段階で工事は無期中断されました。

現在、南スーダン政府はこのジョングレイ運河建設計画の再開を検討していると報じられており、開発と環境保護、そして地域住民の生活との調和が今後の大きな課題となっています。

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