ハイアワサ

ハイアワサ（Hiawatha）

ハイアワサ（Ayenwatha、Ha-yo-went'-haとも呼ばれる）は、16世紀中葉に現在の北米五大湖周辺地域で活躍したモホーク族の重要な人物です。彼は世襲の指導者や首長ではなく、偉大な戦士であり、何よりも平和のための「調停者（ピースメーカー）」として知られています。特に、予言者とされるデガナウィダと共に、長年争っていた五つの部族をまとめ上げ、「イロコイ連邦」（自称：フーデノサウニー）を創設した英雄として、その名が歴史に刻まれています。

平和への旅

16世紀半ば、五大湖の南側では、カユーガ族、モホーク族、オナイダ族、オノンダーガ族、セネカ族の五つの部族が激しい抗争を繰り広げていました。このような状況の中、五大湖の北、ワイアンドット族（ヒューロン族）出身のデガナウィダが、争いを止めさせ平和をもたらすための旅に出ます。各地で和平の重要性を説いて回ったデガナウィダは、五大湖の東に位置するモホーク族の村で、当時恐れられていた戦士であったハイアワサと出会いました。

ハイアワサは村でも一目置かれる強力な戦士でしたが、絶え間ない戦いに虚しさを感じ、心の安寧を得られずにいました。デガナウィダが訪れ、天空の大精霊からの良き知らせとして「国同士の戦いは終わらなければならない」「精霊は人間が血を流すことを望んでいない」と説いた時、ハイアワサは家族と共にその言葉に耳を傾けます。デガナウィダが、すでに周辺の部族が和平の呼びかけを受け入れていると述べると、ハイアワサとその部族もその教えに従うことを決めました。

デガナウィダはハイアワサに、五部族の中でも特に強力で、和平に強く反対しているオノンダーガ族の戦士タドダホの存在を伝えて東へ向かいます。その後、不思議な悲劇がハイアワサを襲います。わずか一月の間に、彼の三人の娘が次々と命を落としてしまったのです。深い悲しみに打ちひしがれたハイアワサは、一人デガナウィダの後を追う長い苦難の旅に出ます。ようやくデガナウィダと再会し、その慰めによって悲しみが癒される中で、ハイアワサは平和を実現するためのデガナウィダの活動に全力を尽くすことを誓いました。

イロコイ連邦の誕生

デガナウィダとハイアワサは協力して、カユーガ族、モホーク族、オナイダ族、オノンダーガ族、セネカ族の五つの部族に平和的な同盟の結成を呼びかけました。デガナウィダは構想の中心人物でしたが、言語に障害があったため、ハイアワサが彼の考えを代弁する重要な役割を担いました。

インディアン社会における「チーフ」（酋長）は、指導者というよりは部族内の意見をまとめる「調停者」としての性格が強く、「ピースメーカー」と呼ばれることもあります。アメリカ北東部のインディアン国家は、「ロングハウス」と呼ばれる議会場に集まり、「会議の火」を囲んで酋長たちが合議によって全ての決定を下す、徹底した民主主義社会を築いていました。ハイアワサとデガナウィダは、その偉大な功績から「グレート・ピースメーカー」と称されています。

二人の「グレート・ピースメーカー」は、五部族の代表者たちを「会議の火」の周りに集め、歴史的な和平調停を実現させました。デガナウィダは、五部族は皆「きょうだいである」と訴え、互いに殺し合い、頭皮を剥ぎ、人肉を食らう儀式をやめ、和解して平和のための強固な同盟を結ぶことを強く呼びかけたのです。ハイアワサもデガナウィダの言葉を雄弁に伝え、困難な交渉を粘り強く進めました。こうして、デガナウィダとハイアワサの献身的な尽力によって、カユーガ族、モホーク族、オナイダ族、オノンダーガ族、セネカ族の五つの部族はついに同盟を結び、「フーデノサウニー」、すなわちイロコイ連邦が成立したのです。

伝説によれば、和平に最も強く反対していたオノンダーガ族の戦士タドダホは、恐ろしい顔つきで髪にヘビを絡ませた怪物のような姿をしていたと伝えられています。ハイアワサは、このタドダホのもとを訪れ、その恐ろしい姿にもひるまず、彼の髪からヘビを櫛で梳き取ってやったと言われています。これによりタドダホは心を動かされ、部族を和平会議に参加させることになったと語り継がれています。

デガナウィダによって構想され、ハイアワサの協力のもと築かれたこの部族連合は、18世紀前半にタスカローラ族が加わって六部族連合となった後も、現在に至るまで強固な結束を維持しています。この際に取り決められた部族間の盟約や法は「イロコイ憲章」として、貝殻の玉を編んだ帯であるワムパム・ベルトに象形模様で記録されました。このワムパム・ベルトは、イロコイ連邦において今なお大切に保管されており、連邦の歴史と平和への誓いを後世に伝えています。

なお、アメリカの詩人ヘンリー・ワズワース・ロングフェローの有名な叙事詩『ハイアワサの歌』は、オジブワ族のトリックスターであるナナボーゾをモデルにしたものであり、ここで述べたイロコイ連邦創設に関わったハイアワサとは異なる人物です。

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