ワムパム

ワムパム (Wampum)とは

ワムパムは、北米大陸の先住民によって作られた、貝殻を素材とするビーズ状の工芸品です。主に北アメリカ北東部で作られ、装飾品としてだけでなく、歴史の記録、条約の締結、さらには貨幣としても使用されました。日本語ではウォンパムやワムプムとも表記されます。

素材と形状

ワムパムの主な材料は、ナラガンセット語で「クォーホグ」または「北のクォーホグ」と呼ばれるホンビノスガイです。この貝殻を加工してビーズを作り、糸や革紐に通して装飾品や衣服の飾りにしました。ビーズは円筒形で、長さ約8ミリメートル、太さ約3ミリメートル、中央に穴が開けられています。

ホンビノスガイの貝殻は全体的に白いですが、貝柱の近くは紫色を帯びています。特に価値が高いとされたのは、この紫色の部分から作られたワムパムでした。白いビーズは「ワムピ (wampi)」、紫色のビーズは「サキ (saki)」とも呼ばれました。ワムパムは一般的に紐で結ばれ、「ワムパム・ピーグ」または「ピーグ」、「ワムパム・ベルト」などと呼ばれていました。

ヨーロッパからの植民者が到来してからは、彼らもワムパムを作るようになりました。巻貝など、厚みのある貝殻の内側のピンク色の部分を細長いビーズ状に加工したものは、「ヘア・パイプ」と呼ばれ、先住民も胸飾りなどに使用しました。

用途

社会的な使用

ヨーロッパ人が北米大陸に到達する以前から、先住民の社会では国家間の連合体が形成されていました。ワムパムは、宗教的・社会的な慣習において重要な価値を持っていました。現在のニューヨーク州北部やセントローレンスバレーに位置していたイロコイ連邦は、ワムパム・ベルトを歴史の記録、条約の締結、特別な出来事の記録、贈り物として使用していました。

伝承によれば、ワイアンドット族のデガナウィダとモホーク族のハイアワサという人物が、部族間の争いを鎮めるためにイロコイ連邦を結成したとされています。当初はモホーク族、オナイダ族、オノンダーガ族、カユーガ族、セネカ族の5部族で構成され、後にタスカローラ族が加わりました。連邦の基本法である「大いなる法」もワムパムに記録されました。

紫と白の2色を使った「カス・ウェン・サ (kas-wen-tha)」と呼ばれるベルトは、イロコイがヨーロッパからの入植者を歓迎する際に使用されました。このベルトは「私たちは父と子ではなく、兄弟のような関係になろう」という合意を表しており、2本の紫色の線は先住民と植民者の船を象徴し、互いを妨げずに並んで進むという意味が込められていました。

貨幣としての使用

先住民はワムパムを富の象徴としても捉えていました。ナラガンセット族がワムパムの生産の中心であり、ロングアイランドのメトアック族も大規模に生産を行っていました。これらの海岸地域の先住民は、モホーク族などの内陸部の集団と毛皮をワムパムと交換したり、貢物としてワムパムを贈ったりしていました。また、指導者は兵士への報酬としてワムパムを与えることもありました。ワムパムは誰でも作ることができたため、貨幣鋳造権のような特権は存在しませんでした。

ヨーロッパからの入植による北アメリカ植民地においても、ワムパムは貝貨として使用されました。植民地の初期には植民地全土で流通し、特にニューイングランド植民地群と中部植民地群が流通の中心となりました。その理由として、

1. 鋳造された硬貨が不足していたこと
2. 商品生産の増加に伴い、媒介物の必要性が高まったこと
3. デフレーション的な貨幣危機下で物価の暴落を防ぐ必要があったこと
4. アメリカ先住民との一時的な共存関係があったこと

などが挙げられます。

1627年、ニューイングランド植民地でワムパムが使用され始め、オランダ西インド会社のイサク・ド・ラジェールがプリマス植民地に導入しました。これらのワムパムはロングアイランドで作られたもので、先住民と植民者の交易において貨幣として使用されました。先住民はワムパムを武器、アルコール、衣類などと交換し、植民者は先住民から手に入れたワムパムを、他の先住民とのビーバーの毛皮交易や、鹿肉、トウモロコシなどの交換に使用しました。また、ワムパムと引き換えに先住民の労働力や兵力も利用しました。土地の購入にもワムパムが使用され、1657年には植民者がナラガンセット湾のコナニィカット島をワムパムで購入した記録が残っています。

先住民と植民者の交易で使用されていたワムパムは、次第に植民者同士の取引にも使用されるようになりました。1637年のニューイングランドでは、ワムパグピーグは6個あたり1ペンスとして政府機関への支払手段として認められ、1641年には法定通貨となりました。商品の購入、納税、労賃の支払いなどに使用できるようになり、ニューネーデルラント、ニュージャージー植民地、ペンシルバニア植民地などでも同様の状況となりました。しかし、1660年代以降、植民地の経済が自立するにつれて先住民への依存度が低下し、貨幣としてのワムパムは次第に姿を消していきました。

類似の文化

アメリカ大陸の大西洋岸では、古くから貝殻が装飾品として使用されていました。カリフォルニアの中部と南部にあたる地域では、小型のマクラガイが約9000年にわたって装飾に使用されていました。また、マクラガイは16世紀から19世紀にかけて東岸部で貝貨としても使用されました。

アメリカ大陸の太平洋北岸では、ツノガイから作られたビーズも貴重とされ、貝貨として使用されていました。ミゾコブシボラから作られる白いビーズの貝貨も存在しました。ホンビノスガイの近縁にあたるアイスランドガイもクラムチャウダーなどの食用として利用されますが、貝貨として使用されることはありませんでした。

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