ハイイロアザラシ

ハイイロアザラシ（Halichoerus grypus）

ハイイロアザラシは、灰色海豹とも呼ばれ、食肉目の鰭脚類に属する大きなアザラシです。この種はハイイロアザラシ属の唯一の種として知られています。分布は北大西洋の東西に広がり、特にイギリスやアイルランドの沿岸、さらにアメリカやカナダの海岸に見られます。

生息地と特徴

北大西洋の東側では、イギリスとアイルランドの沿岸に生息し、特に繁殖シーズンには大規模な営巣地が形成されます。ノーサンバーランド沖のファーン諸島やスコットランド北部、ダブリン沖のLambay諸島など、数千頭が集まるポイントが知られています。雄は一般的に体長2.5mから3.3m、体重は300kgに達することもありますが、雌はこれに比べると小さく、体長1.6mから2m、体重は100kgから150kgです。

北大西洋の西側、特にアメリカのニュージャージー州以北でも観察され、ニューイングランドでは年間を通じて見ることができます。冬季には、沿岸の岩場や小島で日向ぼっこする姿が見られます。春になると、若い個体が浜辺に打ち上げられることもあり、その姿が目に留まることがあります。

出産と成長

ハイイロアザラシの出産期は地域によって異なり、東大西洋では秋（9月から11月）、西大西洋では冬（1月から2月）です。新生児は白い毛に包まれた小さな体ですが、母親の栄養豊富な乳を吸うことで急速に成長します。1ヶ月ほどで幼体の毛は抜け、大人と同じ防水性を持つ毛に生え変わります。この時期から、餌を自分で捕るために海に出るようになります。

食性と生態

かつてはタラなどの魚を主食として考えられていましたが、最近の研究ではネズミイルカや他の動物を捕食することも確認されています。観察される共食いの事例もあり、ハイイロアザラシの食生活は多様化しています。

生息数の増加とその影響

近年、北大西洋の西側ではハイイロアザラシの生息数が増加しており、この状況がカナダやアメリカでの駆除要望を呼び起こしています。しかし、ハイイロアザラシは海棲哺乳類保護法により保護されており、危害を加えることは法律で禁止されています。かつてはメーン州にのみ営巣地が見られたのが、現在では南部のニューヨーク州やニュージャージー州でも増加し、営巣地がさらに南下しています。

日本沿岸での観察記録

日本での観察例は非常に稀で、2006年秋田県の雄物川河口で見られた小型アザラシが幼年期のハイイロアザラシであると考えられています。このような観測は非常に珍しく、「おもちゃん」という通称がつけられています。

ハイイロアザラシは、北大西洋の生態系において重要な役割を果たしており、その生態や行動についての理解が深まることが期待されています。

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