ハイドパーク・フリーコンサート

1969年、ハイドパークに響いた鎮魂歌：ローリング・ストーンズのフリーコンサート

1969年7月5日、ロンドンのハイドパークは、30万人もの熱狂的な観客で埋め尽くされました。その中心には、ローリング・ストーンズ。このコンサートは、単なるライブではありませんでした。それは、バンドの創設メンバーでありギタリストであったブライアン・ジョーンズの死を悼む、追悼コンサートだったのです。

当初、このコンサートは新ギタリスト、ミック・テイラーの加入を祝うお披露目ライブとして計画されていました。しかし、開催わずか2日前、ジョーンズが自宅プールで溺死するという衝撃的な出来事が起こります。バンドは大きな悲しみに包まれました。しかし、ミック・ジャガーは、このコンサートをジョーンズへの鎮魂歌として捧げようと決断しました。

コンサートは、想像を絶する規模で行われました。前座には、キング・クリムゾン、サード・イアー・バンドといった当時の新鋭バンドが名を連ね、会場の熱気を高めました。ストーンズのステージが始まる直前、ジャガーは静寂を呼びかけ、シェリーの詩「アドネ」を朗読。この詩は、ジョーンズが愛した詩のひとつでした。そして、ジョニー・ウィンターの「I'm Yours And I'm Hers」というカバーで、ストーンズの演奏が始まりました。約2000匹の白い蝶が放たれる演出も予定されていましたが、残念ながら、蝶の多くは搬送中に死んでしまい、この演出は失敗に終わりました。

ストーンズの演奏は、決して完璧とは言えませんでした。2年ぶりのステージ、そして加入間もないテイラーの緊張感も相まって、演奏は少しぎこちないものだったようです。しかし、観客の熱狂は、演奏の出来不出来を凌駕していました。当時のストーンズのコンサートでは、観客の暴動や怪我人が出ることも珍しくありませんでしたが、このハイドパークのコンサートは、比較的平和裏に幕を閉じました。観客は帰り際にゴミをきちんと片付け、公園への損害も最小限に留まりました。

このコンサートの警備を担当したのは、ヘルズ・エンジェルスでした。彼らの貢献は高く評価され、同年12月に行われたストーンズのオルタモント・フリーコンサートでも警備を任されることになります。しかし、この決定は後に悲劇的な結果を招くことになります。

このハイドパークでのコンサートは、ITVによって撮影され、「The Stones In The Park」としてテレビ放映されました。53分に編集されたこの映像には、コンサート本編だけでなく、バックステージの様子や、ミック・ジャガーの恋人だったマリアンヌ・フェイスフルの姿も収められています。その後、VHS、DVD、そしてブルーレイと、様々なフォーマットで発売され、現在でも多くの人々に愛されています。2013年には、ミック・テイラーも参加した44年ぶりのハイドパーク公演が行われ、この伝説的なコンサートの歴史に新たな一章が刻まれました。

このコンサートは、音楽史に残る重要なイベントです。それは、偉大なミュージシャンの死を悼むとともに、新たな時代の幕開けを告げる象徴的な出来事だったと言えるでしょう。そして、その歴史的瞬間の一部始終は、映像作品として、現在も私たちの目に焼き付いています。

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