ハイリゲンクロイツ修道院

ハイリゲンクロイツ修道院：歴史と建築が織りなす荘厳な空間

ハイリゲンクロイツ修道院（Stift Heiligenkreuz）は、オーストリアの首都ウィーン近郊に位置する、シトー会に属する修道院です。その歴史は深く、1133年の創立以来、一度も中断されることなく継続されている、シトー会修道院としては最も古いものとして知られています。「ハイリゲンクロイツ」という名前は、「聖十字架」を意味し、その名の通り、神聖な雰囲気に包まれた場所です。

歴史：創立から現代まで

修道院の歴史は、12世紀にレオポルト3世が、息子のオットーのために設立したことに始まります。その後、レオポルト5世が聖十字架をもたらしたことで、「ハイリゲンクロイツ」という名がこの地一帯を指すようになりました。バーベンベルク家の庇護のもと、多くの関連修道院を設立し、その勢力を拡大していきました。修道院内では、自給自足のために養魚池を設けるだけでなく、13世紀には製鉄業も営んでいたという記録が残っています。

18世紀末には、ヨーゼフ2世の啓蒙主義政策により、修道院解体の危機に直面しましたが、これを乗り越え、1802年には哲学と神学の大学を設立し、教育機関としての役割も担うようになりました。20世紀には、第二次世界大戦の影響を受け、ナチス・ドイツによって財産が没収され、修道士が抑留されるという苦難も経験しました。しかし、戦後に開放されてからは、修道院の改革が行われ、第2バチカン公会議の精神が反映された運営が行われるようになりました。1988年には、ドイツのルール地方ボーフムに新たな関連修道院を設立するなど、その活動は現代においても活発です。

21世紀に入り、ハイリゲンクロイツ修道院は「ヨーロッパ最大のシトー会修道院」として、多くの観光客を受け入れる、開かれた修道院としてその役割を果たしています。

建築：多様な様式が織りなす美

ハイリゲンクロイツ修道院の建築は、ロマネスク様式を基調としていますが、幾度かの改修を経て、各時代の様式が混在する独特の景観を作り出しています。13世紀にはゴシック様式で内陣が改装され、明るく開放的な空間が生まれました。17世紀から18世紀にかけては、バロック様式が一部取り入れられましたが、19世紀末にはネオゴシック様式に置き換えられました。

修道院の西正面には前庭が設けられ、その奥にはロマネスク様式のファサードを持つ教会堂の入口があります。教会堂内部の身廊は1187年に完成したもので、ロマネスク様式の特徴を色濃く残しています。一方、東端の内陣はゴシック様式で、ネオゴシック様式の祭壇天蓋などの装飾が施されています。身廊南側の回廊は13世紀に完成したもので、内部には噴水を備えた小屋（噴泉室）が付属しています。この噴泉室は、シトー会修道院特有のもので、ハイリゲンクロイツの噴泉室は、幅の広いトレーサリーとステンドグラスで構成され、明るい空間となっています。回廊の南には修道士たちの居住区が、東には作業室や集会室が配置されています。集会室は、バーベンベルク家当主であった4人の墓所ともなっています。

ワイン造り：修道院とワインの深い繋がり

この地域は、ローマ帝国時代にブドウが持ち込まれましたが、マジャール人の侵攻により、ワイン造りは一時途絶えていました。しかし、ハイリゲンクロイツ修道院が、シトー会の信仰とともに、ワイン造りとブドウ栽培の技術をブルゴーニュからオーストリアへ再導入したのです。現在、ハイリゲンクロイツ修道院のあるニーダーエステライヒ州は、ドナウ川沿岸地域で最大のワイン生産地となっています。この土地の土壌と気候が、ブドウ栽培に非常に適しているのです。

修道院に眠る人々

修道院の集会室には、レオポルト4世、レオポルト5世、フリードリヒ1世、フリードリヒ2世という、歴代のバーベンベルク家当主が埋葬されています。特に、フリードリヒ2世は、修道院への多大な支援を行ったことから、石棺に収められた状態で床上に安置されています。修道院を設立したレオポルト3世は、ハイリゲンクロイツ修道院ではなく、クロスターノイブルク修道院に埋葬されています。

ハイリゲンクロイツ修道院は、その長い歴史の中で、建築様式の変遷、信仰、文化、そしてワイン造りといった様々な要素が織りなす、魅力的な空間です。訪れる人々は、その荘厳な雰囲気の中で、歴史の重みと精神的な安らぎを感じることができるでしょう。

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