ハインケル HeS 8

HeS 8: ハインケルのターボジェットエンジン

ハインケル社が開発したHeS 8は、歴史的に重要なエンジンであり、世界初のジェット戦闘機であるHe 280に搭載されました。しかし、その性能が期待に届かなかったため、正式には採用されず、試作のみに終わりました。

背景と開発経緯

1939年8月、ハインケル社はHe 178の初飛行を成功させ、この機体は世界初のターボジェット推進機とされています。これに続いて1941年に開発が進められたHe 280は、当時のナチス高官たちの前で展示飛行が行われ、新たな戦闘機の開発が決定されました。ここで重要な役割を果たしたのが、ユンカース航空エンジン社から移籍したエンジニアたちです。彼らはハインケルでの開発に参加し、遠心式ターボジェットの改良を進める一方、フランス人エンジニアハンス・フォン・オハインの開発した別の形式のエンジンにも関与しました。

当初の計画では、性能の高いターボジェットエンジンを搭載する方針でしたが、技術的なハードルが多く存在しました。特に、燃焼室の配置やエンジン直径の大きさは課題とされ、改良を重ねる中でHeS 8の開発が進みました。エンジンは、その基本構造において外径を縮小しながら高圧縮を実現するため、アニュラー型燃焼器を採用品としていました。

性能と課題

HeS 8の設計は新たな革新をもたらしましたが、推力の面での課題は残りました。設計上、目指していた静止推力700kgに対し、実際の出力は500kg程度と、期待にはほど遠いものでした。また、信頼性や耐久性に問題があり、エンジンの寿命もわずか10時間程度でした。これらの問題は開発チームにとって大きな悩みの種となり続けました。

He 280は、実用射出座席を世界で初めて装備した試作機として知られています。1941年3月31日に初飛行し、その後の展示飛行では優れた性能を披露しましたが、より先進的な設計のMe 262を優先する決定が下されたため、He 280の正式採用は実現しませんでした。

計画の行く末

その後、ハインケル社はエンジン開発の強化を図るため、エンジンメーカーのヒルト社との合併を申請し、許可を得ました。しかし、HeS 8の性能向上も期待されたほど成功せず、軸流式エンジンの実用化への道が開かれてしまう結果となりました。

最終的に、HeS 8の後に続く改良型の試作も行われましたが、他のジェットエンジン設計が開発が進む中、HeS 8を基にした新たなエンジンの実現には至りませんでした。特に、HeS 9やHeS 10のような改良型が検討されたものの、計画は中止されてしまいました。

HeS 8の仕様

試作16号機

寸法：全長1.6m、直径0.775m
重量：380kg
推力：600kg @ 13,500 r.p.m.
圧縮比：2.7:1

結論

HeS 8は、その革新的な設計が期待されたにもかかわらず、性能不足から正式採用には至りませんでした。その影響は、後に開発された他のジェットエンジンにも見ることができ、航空機技術の進歩に寄与した事例の一つと言えるでしょう。

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