ハインリヒ・クライペ

カール・クライペ大佐：クレタ島からの脱出劇

カール・ハインリヒ・ゲオルク・フェルディナント・クライペ（1895年6月5日-1976年6月14日）は、第二次世界大戦中に名を馳せたドイツ軍将校です。その名は、1944年、クレタ島で起こった大胆不敵な誘拐事件によって広く知られることとなります。

軍歴とクレタ島への赴任

クライペはドイツ、テューリンゲン州で生まれました。第一次世界大戦では陸軍に志願し、中尉にまで昇進。戦後はフリーコープスを経て、ヴァイマル共和国軍に所属しました。第二次世界大戦が始まると、クライペは第58歩兵師団で活躍し、フランス侵攻やレニングラード包囲戦に参加。その功績から騎士鉄十字章を受章するなど、軍における地位を着実に築き上げていきました。東部戦線での戦闘経験を経て、一時、軍政・教育関係の職務に就いた後、再び東部戦線へ。1944年3月には、クレタ島守備隊司令官兼第22歩兵師団長に任命されます。この時、クライペは既に「クレタの屠殺者」として知られていたフリードリッヒ＝ヴィルヘルム・ミュラー将軍の後任でした。

誘拐作戦の発動

連合国軍は、クレタ島のドイツ軍司令官の誘拐作戦を計画していました。当初の標的はミュラー将軍でしたが、彼が島を離れたため、作戦の標的はクライペ大佐に変更されました。この作戦は、イギリス特殊作戦執行部（SOE）のエージェントとクレタ抵抗勢力の協同で行われました。

1944年4月26日の夜、クライペ大佐はアルカネスの守備隊司令部から、イラクリオン郊外の司令官公邸へ向かう途中、待ち伏せされました。ドイツ軍の制服を着たSOEのエージェントたちは、公用車を停止させ、クライペ大佐を拘束。運転手も制圧し、公用車を奪取しました。

険しい脱出路

誘拐犯たちは、22個もの検問を突破し、イラクリオンから脱出。その後、山岳地帯にあるクレタ抵抗勢力のアンドアルティコに協力を得ながら、ドイツ軍の追跡をかわしつつ、南海岸を目指しました。激しい逃走劇の末、彼らはついに海岸に到達。5月14日、イギリス海軍の機動艇に乗り込み、クレタ島から脱出に成功し、エジプトへと向かいました。

捕虜生活とその後

エジプトで尋問を受けた後、クライペ大佐はカナダの捕虜収容所、その後ウェールズの収容所に送られました。1947年に釈放された後、彼は1972年には誘拐に関わったイギリス人将校たちと共にギリシャのテレビ番組に出演するなど、意外なほど平穏な晩年を送りました。1976年、ドイツのノルトハイムで亡くなりました。

誘拐事件の影響

この大胆な誘拐作戦は、世界中に衝撃を与え、数々の書籍や映画の題材となりました。特に、誘拐作戦に関わったビル・スタンリー・モス大尉が著したノンフィクション小説『Ill Met by Moonlight』はベストセラーとなり、1957年には映画化もされました。映画では、クライペ大佐をマリウス・ゴーリングが演じました。

クライペ大佐の誘拐事件は、第二次世界大戦におけるレジスタンス活動の象徴的な出来事として、現在も語り継がれています。その大胆な作戦と、クライペ大佐の生涯は、歴史に残る興味深い物語として、人々の記憶に刻まれています。

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