ハエトリシメジ

ハエトリシメジ（Tricholoma muscarium）

ハエトリシメジは日本特有のキノコで、学名はTricholoma muscariumです。このキノコは、ハラタケ目キシメジ科に属し、特にその特性から昆虫を引き寄せたり、処理した後に殺虫効果を発揮することから、その名が付けられました。この種名の「muscarium」はラテン語で「ハエに関わる」という意味から来ています。

特徴

ハエトリシメジの魅力はその独特の性質です。このキノコを加熱して水に浸すことで、ハエを誘引し、殺虫する能力があります。これは古くから利用されてきた方法であり、多くの地域でハエ取りの道具として重宝されていました。一見、毒キノコのように思われがちですが、実際はヒトが摂取する際にはうま味成分であるトリコロミン酸を持っているため、美味しいとされ、食用としても利用可能です。ただし、ハエトリシメジにはイボテン酸という成分も含まれており、これは毒性があり、取り扱いには注意が必要です。イボテン酸は、酔ったり、精神的な異常を引き起こす可能性があるため、大量に食べることは避けるべきです。
また、近縁のテングタケにも似た特性があり、地域によっては「ハエトリダケ」と称されることもあります。

生態

ハエトリシメジは主に秋に見られ、コナラなどの広葉樹林の地表に群生または単独で成長します。きのこの傘は直径約5センチメートルで、淡黄色の地に暗緑色の繊維紋があり、中央が尖っています。肉質は白く、もろい組織を持ち、胞子は白色の楕円形で、約6×4μmのサイズです。ひだの色は白から淡い黄色で、密に並んでいます。柄は細長く、白色で約7センチメートルに成長します。
このキノコは同属のミネシメジ（T. saponaceum）に似ていますが、ミネシメジは特有の臭気を放つため、簡単に識別できます。また、ハエトリシメジの傘の中央部分が顕著に突出している点も異なる特徴です。

トリコロミン酸

トリコロミン酸は1964年に竹本常松らによってハエトリシメジから単離された物質です。その名は学名Tricholomaに由来しています。しかし、トリコロミン酸の無毒性は完全には確認されていないため、食材としての利用は一般的ではありません。

このようにハエトリシメジは、その独特な特性により興味深い存在ですが、摂取時には注意が必要です。自然に存在するこのキノコを利用する際には、しっかりと情報を把握し、安全に楽しむことが大切です。

出典

• - 寺崎衛, 藤田栄一郎, 和田正三ほか, 「トリコロミン酸, イボテン酸の呈味性に関する研究 (第1報)」『栄養と食糧』 18巻 3号 1965年 p.172-175.
• - 大矢富二郎、「ハエトリシメジの殺虫成分について I. 殺虫成分抽出試験および遊離アミノ酸について」『日本応用動物昆虫学会誌』 3巻 1号 1959年 p.41-43.
• - 大矢富二郎、「ハエトリシメジの殺虫成分について(第2報) ペーパークロマトグラフィーによる殺虫成分の分離(その1)」『日本農芸化学会誌』 1961年 35巻 8号 p.761-763.

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