ハガナー情報局

ハガナー情報局：イスラエル諜報機関の揺籃

イスラエル建国前、パレスチナのユダヤ人社会（イシューブ）には、軍事組織ハガナーが存在しました。その情報機関として活動していたのが、ハガナー情報局です。ヘブライ語では「シェルート・ハ-イェディオット・シェル・ハ-ハガナー」と呼ばれ、略称を「シャイ」としました。本稿では、ハガナー情報局の設立から解体、そしてイスラエル諜報機関への発展をたどります。

イシューブにおける情報活動の黎明期

19世紀末、シオニズム運動の高まりを受け、多くのユダヤ人がオスマン帝国領パレスチナへ入植しました。当初、彼らの防衛は自衛組織に委ねられていました。1907年には「バル・ギオラ」、1909年には「ショメール」といった防衛組織が設立され、初期の諜報活動も、主として自らの生命と財産を守るための活動でした。

第一次世界大戦下では、イギリス側に協力する「ニリー」といった諜報組織も登場します。しかし、イシューブ主流派のショメールは、ニリーと距離を置く立場を取っていました。戦後、イギリス委任統治下のパレスチナでは、世界シオニスト機構が情報収集のための事務局を設置するなど、諜報活動は徐々に組織化されていきます。

ハガナー情報局の設立と発展

1920年代、本格的な諜報活動はそれほど重視されていませんでした。これは、オスマン帝国による追放や世界恐慌による移民減少、そしてロシアでの秘密警察による拷問体験が、諜報活動への嫌悪感や誤解を生み出したためです。

しかし、1936年から1939年にかけて発生したアラブの大乱を受け、イシューブは包括的な情報機関の必要性を痛感します。1940年（もしくは1939年）、ハガナー情報局（シャイ）が正式に設立されました。当初はユダヤ機関に服属していましたが、後にハガナー傘下に入り、イシューブにおける諜報活動を統括する存在となります。

組織と活動

シャイは、諜報対象別に複数の課を設けていました。

ユダヤ課（後に内事課と改称）: イシューブ内の非主流派組織であるエツェルやレヒを監視
アラブ課: パレスチナのアラブ人を監視
共産課: パレスチナ共産党のユダヤ人とアラブ人を監視
英国課（もしくは総合課）: イギリス委任統治政府や軍隊を監視し、連絡役も務めました。後のイスラエル諜報特務庁（モサド）の原型ともいえます。

特に、ユダヤ課長を務めたイサル・ハルエルは、後のイスラエル総保安庁（シン・ベット）の創設者であり、独立後も安全保障と政治活動を峻別しなかった点で批判も受けています。

シャイには、ユダヤ機関政治局のルーヴェン・シロアッフ、非合法移民機関のシャウル・アヴィグールといったそうそうたるメンバーが参加していました。

解体と遺産

1947年11月、国連のパレスチナ分割決議が採択され、1948年5月14日、イスラエルは独立を宣言します。ハガナーはイスラエル国防軍に改編され、それに伴い、ハガナー情報局（シャイ）も解体されました。しかし、シャイの活動は、後のイスラエル諜報特務庁（モサド）、イスラエル総保安庁（シン・ベット）といった組織の礎となり、今日のイスラエル情報コミュニティの基礎を築いたのです。

まとめ

ハガナー情報局は、イスラエル建国という歴史的転換点における重要な役割を果たしました。その歴史は、諜報活動の初期段階から国家レベルの情報機関への発展過程を示しており、現代のイスラエルの安全保障体制を考える上で、欠かすことのできない存在です。その組織構成、活動内容、そして主要人物たちの業績を詳細に検証することで、イスラエル建国史の一端を垣間見ることができます。彼らの活動は、現代のイスラエルの諜報活動を理解するための重要な鍵となるでしょう。

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