ハクセキレイ

ハクセキレイ（白鶺鴒）

ハクセキレイ（学名: Motacilla alba lugens）は、スズメ目セキレイ科に分類される鳥類で、タイリクハクセキレイ（Motacilla alba）の亜種の一つです。英語では、タイリクハクセキレイの亜種を総称して"White Wagtail"と呼び、特にハクセキレイを指す場合は"Japanese (Kamchatka) Pied Wagtail"や"Black-backed Wagtail"と呼ばれることがあります。

分布

ハクセキレイは、ロシア沿海地方、ハバロフスク地方沿岸部、カムチャツカ半島、千島列島、樺太、日本列島（北海道、本州）、中国東北部に分布しています。これらの地域では留鳥または漂鳥として生息しており、冬場の積雪地でも観察することができます。

日本においては、かつては北海道や東北地方など北部でのみ繁殖が確認されていましたが、20世紀後半から繁殖地を関東・中部地方へと拡大し、現在では東日本では一般的な鳥となっています。西日本では、タイリクハクセキレイに似たホオジロハクセキレイ（Motacilla alba leucopsis）も観察されます。

特徴

体長は約21cmで、ムクドリよりもやや小さく細身です。他のタイリクハクセキレイ亜種と比較してやや大型です。

羽色: オスの夏羽は頭から肩、背にかけて黒色ですが、冬羽とメスは灰色です。腹部は白色で、胸部に黒色の部分があるのが特徴です。オスの胸部の黒色部分はメスよりも広いです。
顔: 白い顔に黒い過眼線が入ります。セグロセキレイと似ていますが、ハクセキレイは目の下部分が白いことで区別できます。
その他: 嘴と脚は黒色で、尾羽は長めです。セグロセキレイやキセキレイと同様に、尾羽を上下に振る姿が特徴的で、波を描くように飛翔します。
幼鳥: 頭から背中が灰色で、顔はやや黄色がかっており、腹部は白色、胸部の黒色部分は薄くまだらです。

生態

ハクセキレイは主に水辺に生息しますが、川だけでなく用水路や、水辺が近くにある畑や市街地などでもよく観察されます。河川の下流域など比較的低地を好む傾向があり、セグロセキレイやキセキレイとは、夏場は棲み分けていることが多いです。

冬場は単独で、夏場は番いで縄張りを持って分散します。縄張り意識が強く、特に冬場は同種のほか、セグロセキレイやキセキレイと生活圏が競合する場合があり、追いかけ回して縄張り争いをする様子もよく観察されます。

食性は雑食性で、高い場所に留まって採食に適した場所を探し、水辺や畑などに降りて歩きながら、水中や岩陰、土中などに潜む昆虫類、クモ、ミミズなどを主に捕食します。近年では都市部などの乾燥した環境にも適応しており、コンビニエンスストアの駐車場やガソリンスタンド、公園や駅のホームなどで餌を食べる様子も観察されています。

繁殖は、寒冷地では年に1回、暖地では年に2回行われます。オスは春から夏にかけて、地上で翼と尾羽を広げて求愛ダンスを行います。巣は、地上の窪みや人家の隙間などに、枯れ草や植物の根を使って皿状に作られ、日本では5月から7月にかけて1腹4 - 5個の卵を産みます。抱卵期間は12 - 15日で、主にメスが抱卵します。雛は13 - 16日で巣立ち、巣立ち後も親鳥と行動を共にし、3 - 4羽程度の集団で行動することもあります。

ハクセキレイは人間に対する警戒心が低く、比較的近くまで寄ってくることがあります。足を交互に出して素早く歩き、歩行者を振り返りながら斜めに歩く姿がよく見られます。

夜は近隣の森などにねぐらを構えますが、市街地では建築物などにねぐらを取る様子も観察されます。秋から冬の間は、照明近くの街路樹に大群で集団ねぐらを作ることがあります。そのため、都市部に進出した近年では、集団ねぐらの糞害や鳴き声が問題視されることもあります。

地鳴きは「チュチン、チュチン」、飛翔時は「チチッ、チチチッ」と聞こえます。巣立ち後の幼鳥は、独り言のようにつぶやくように長く鳴くことがあります。まれに成鳥が縄張り宣伝のために3秒程度の長めの鳴き方をすることがあり、その声は非常に美しいです。

日本国内で見られる亜種

ハクセキレイは全体で11亜種に分類され、日本国内ではハクセキレイのほか、以下の亜種が観察されています。

タイワンハクセキレイ (Motacilla alba ocularis)
ホオジロハクセキレイ (Motacilla alba leucopsis)
シベリアハクセキレイ (Motacilla alba baicalensis)
ネパールハクセキレイ (Motacilla alba alboides)

セキレイ類近縁種の分布

日本では現在、ハクセキレイ、セグロセキレイ (Motacilla grandis)、キセキレイ (Motacilla cinerea) が棲み分けていますが、1930年代までハクセキレイの分布域は北海道のみで、本州以南ではほとんど見られませんでした。その後、沿岸部から勢力を拡大し、都市や埋立地など人工的な環境への適応能力の高さから、分布域を広げています。

ホオジロハクセキレイは、1968年に熊本県で繁殖が確認され、以降西日本地域の沿岸部を中心に分布しています。近年ではハクセキレイとの分布域が重なるようになり、交雑も確認されています。

自治体指定の鳥

ハクセキレイは、以下の区市町村で指定の鳥となっています。

三笠市
水戸市
八潮市
板橋区
東村山市
岡崎市

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