ハクロビア

ハクロビア (Hacrobia) とは

ハクロビア（Hacrobia）は、真核生物の主要な系統群の一つであるクロムアルベオラータの中から、SARスーパーグループとして知られる系統群（Stramenopiles, Alveolata, Rhizariaの頭文字に由来）を除いた生物群をまとめた分類学的仮説、あるいはかつて提唱された分類群名です。

このグループは、分子系統解析の研究が進展する中で、従来の分類体系ではその位置づけが不明瞭であったいくつかの真核生物グループが、互いに近縁である可能性が示唆されたことから提唱されました。特に、光合成を行う藻類や、従属栄養性の原生生物など、多様な形態と生態を持つメンバーが含まれると考えられていました。

名称の由来と関連する名称

「ハクロビア」という名称は、このグループに含まれると考えられた主要なメンバーであるハプト藻（Haptophyta）とクリプト藻（Cryptophyta）の頭文字を取って名付けられました。末尾の「-bia」は、生物群を示す接尾辞です。

ハクロビアと同様の範囲を指す名称としては、CCTH（Cryptophyta, Centrohelida, Telonemia, Haptophyta - クリプト藻、中心粒太陽虫、テロネマ門、ハプト藻）や、「Eukaryomonadae」といった名称も提案されたり、使用されたりすることがあります。これは、ハクロビアに含まれる主要な構成要素と考えられていたグループ名に由来しています。

研究の歴史と分類上の変遷

生物の分類体系は、新しい研究手法や発見によって常に変化しています。かつては、ストラメノパイル、ハプト藻、クリプト藻といったグループは、まとめて「クロミスタ」と呼ばれる大きな系統群に分類されていました。

しかし、特に遺伝子情報を比較・解析する分子系統学の手法が発展すると、これらのグループ間の類縁関係について、より詳細な知見が得られるようになりました。その結果、ストラメノパイルはクロミスタから独立した系統とされるようになり、一方でハプト藻とクリプト藻が比較的近縁であることが示唆されるようになりました。これらの二つのグループは、しばしば「Cryptophyta + Haptophyta」という形でも言及されます。

そして、2009年頃の研究において、ハプト藻やクリプト藻に加え、当時は他のどの主要な系統群にも明確に位置づけられていなかったテロネマ門や中心粒太陽虫といった原生生物も、これらのグループと比較的近い系統関係にあることが示唆されました。これらのグループをまとめて一つの系統群として扱うという仮説に基づき、「ハクロビア」という名称で提唱されたのです。さらに、ごく微小な光合成生物であるピコビリ藻も、ハクロビアに含まれる可能性があるという指摘もなされましたが、情報が十分でなく、確定には至りませんでした。

ハクロビアの単系統性と現在の位置づけ

ハクロビアは分子系統解析に基づいて提唱された分類群ですが、その提唱以降の研究によって、含まれるとされたグループ間の厳密な系統関係については、依然として不確実な点が残されています。つまり、ハクロビアが本当に一つの共通祖先から分かれた「単系統群」であるかどうかについて、科学的なコンセンサスは得られていません。

このような背景から、原生生物の国際的な分類体系を定める国際原生生物学会（ISOP）が2019年に発表した最新の分類体系では、ハクロビアは正式な分類群としては採用されていません。

したがって、ハクロビアは、かつて有力な仮説として提唱されたものの、その後の研究の進展により、構成要素とされた各グループの系統関係がさらに詳細に分析される中で、再検討が必要とされる、あるいは他の分類体系に取って代わられている段階にあると言えます。

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