ハチノスツヅリガ

ハチノスツヅリガの詳細解説

ハチノスツヅリガ（学名: Galleria mellonella）は、メイガ上科に属するガの一種です。幼虫がミツバチの巣を食害することで広く知られ、日本では「スムシ」という名で忌み嫌われています。別名としてハチミツガとも呼ばれます。

形態的特徴

ハチノスツヅリガは、オスとメスで大きさに違いが見られます。オスの開帳は14～23mm程度であるのに対し、メスは20～35mmと、メスの方がやや大きいです。頭部は白褐色で、鱗片に覆われており、前方に突き出しています。触角は糸状で、基部がやや平たくなっています。下唇鬚は淡い鼠色で、黒い鱗粉がまばらに混じります。オスでは下唇鬚が短く上向きですが、メスでは長く前方に伸び、先端が上を向きます。

前翅は赤褐色ですが、後縁はやや色が薄く、基部から後角にかけて灰色を帯びた部分があります。また、中央には黒斑の列が縦に並びますが、後縁に近いものだけが明瞭です。後翅は暗褐色をしています。

生態

ハチノスツヅリガは、年に2回発生すると考えられています。成虫は6月と8～9月頃に出現します。メスは夕方にミツバチの巣に侵入して産卵し、夜明け前に巣を去ります。卵はバラバラに産みつけられることもあれば、最大127個の集団となることもあります。卵は33℃で約7～8日で孵化します。メスは非常に速いペースで産卵を行い、1匹あたり平均1000個もの卵を産むこともあります。

孵化した幼虫は巣内を移動し、巣の隙間や巣片の下に潜り込みます。そして巣を齧り始め、周囲に齧り屑や排泄物の壁を作ります。成長すると、巣板内部に穴を開け、トンネル状の巣穴を広げていきます。幼虫は主に夜間に活動し、巣板を主食としますが、巣基も食害します。幼虫期間は6～10齢で、温度によって変動しますが、若齢幼虫は2～3日、終齢幼虫は7～8日程度です。

終齢幼虫は巣の周囲の木材に窪みを作るか、円筒形の穴を掘って蛹化します。蛹の期間は20℃で約20日、30℃で約10日です。羽化は夕方に行われ、羽化した成虫は巣を離れて翅を広げます。成虫は日が暮れると飛び立ち、木の茂みに隠れます。成虫の寿命はメスの場合、20℃で19日、30℃で9日、35℃で6日程度で、オスよりも短命です。

食性

ハチノスツヅリガの幼虫は、ミツバチの巣材であるワックスを消化することができます。これは体内に共生する微生物の働きによるものです。ワックスは幼虫の成長に必須ではありませんが、餌に混ぜると成長が促進されます。これは、代謝水として利用されるためと考えられています。また、幼虫はミツバチの死骸、蛹の抜け殻、自らの排泄物なども食べます。実験的には、小麦粉やサツマイモ、ロウソクなども食べることが確認されています。現在では人工的な餌も開発され、自然の餌よりも良い生育が得られるようになっています。

分布

ハチノスツヅリガは、日本国内では本州、四国、九州、対馬、琉球列島、小笠原諸島に分布しています。国外では、台湾、朝鮮半島南部、中国、ロシア東南部、ヨーロッパ、東南アジア、インド、オーストラリア、北アメリカ、アフリカなど、世界中に広く分布しています。ただし、ロッキー山脈地域のような荒地や、イギリスのように極端に高湿な地域では発生が抑制される傾向があります。

この種がミツバチの巣に寄生する習性は、人類が養蜂を始める以前から存在していたと考えられています。養蜂の発展とともに世界中に広がったものと推測されています。起源は東洋である可能性が高いとされています。古代ギリシャの哲学者アリストテレスも、このガについて記録を残しています。

分類・類似種

ハチノスツヅリガはツヅリガ亜科に属し、メイガ科の中では比較的小さなグループです。世界には約400種、日本では約20種が知られています。ハチノスツヅリガには亜種の区分はありません。

同じようにミツバチの巣を食害する種として、以下のものがあります。

ウスグロツヅリガ (Achroia innotata): 日本では本州、九州、対馬に分布。国外では東アジアから東南アジア、インド、スリランカに分布。
コハチノスツヅリガ (A. grisella): 世界的に広く分布するが、日本では東京と高松市での記録のみ。

これらの種は、成虫の前翅の端が丸みを帯びている点が、ハチノスツヅリガと異なります。

人間との関わり

ハチノスツヅリガは、ミツバチの巣を食害する害虫として広く知られています。また、毛皮や羊毛類を食害することもあります。しかし、その一方で、飼育が容易であることから、釣り餌として養殖もされています。近年では、ブドウ虫の代替として「ブドウ虫」の名称で販売されています。

また、ハチノスツヅリガは、ポリエチレンやポリスチレンを分解できることが分かっており、プラスチック廃棄物問題の解決に役立つ可能性も示唆されています。

養蜂への被害

ハチノスツヅリガの幼虫は、ミツバチの巣を食い荒らし、トンネルを作ります。これにより、巣板が損傷し、蜜が漏れる被害が発生します。幼虫が蛹化する際には、巣の周囲の木材を削るため、巣箱自体が破損することもあります。住居にミツバチが住み着いている場合、そこから出た幼虫が壁や壁紙を食害することもあります。

養蜂においては、ハチノスツヅリガによる被害は深刻で、特に南の地域で被害が大きいとされています。しかし、ハチノスツヅリガの被害は、ミツバチの群れが弱っている場合に発生しやすいと指摘されており、群れの健康管理が重要であると考えられています。

評価

ハチノスツヅリガは養蜂家にとって重要な害虫であり、その被害は広範囲に及ぶ可能性があります。発見した場合は、速やかに駆除することが推奨されています。しかし、ミツバチの群れが健康であれば、被害を最小限に抑えることができるとも考えられています。

出典

参考文献
石井悌他編、『日本昆蟲圖鑑』、(1950)、北隆館
岸田泰則, 広渡俊哉, 那須義次, 坂巻祥孝『日本産蛾類標準図鑑』 1-4巻、学研教育出版, 学研マーケティング (発売)、2011年。
江崎悌三, 一色周知, 六浦晃, 井上寛, 岡垣弘, 緒方正美, 黒子浩『原色日本蛾類図鑑』 上巻、保育社、1957年。
ノア・ウィルソン＝リッチ／矢能千秋他訳、『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』、(2015)、河出書房
吉田敏治「ハチノスツヅリガの生態と防除」『ミツバチ科学』第2巻第3号、玉川大学ミツバチ科学研究所、1981年7月、115-122頁
近藤栄造、石橋信義「Steinernema 属昆虫寄生性線虫のハスモンヨトウおよびハチミツガ幼虫に対する感染性と増殖比較」『九州病害虫研究会報』第34号、九州病害虫研究会、1988年、154-158頁

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