ハッサク

ハッサク：因島から全国へ広がる独特の柑橘

はじめに

ハッサクは、広島県尾道市因島を原産地とするミカン科の柑橘類です。ザボンに似た特徴を持つこの果実は、独特の苦味と甘酸っぱさ、そしてプチプチとした食感が魅力です。厚みのある果皮と袋（じょうのう膜）を剥いて食べるのが一般的で、その風味は多くの人を魅了しています。本稿では、ハッサクの歴史、生産地、そして食文化における役割について詳細に解説します。


歴史：偶然の発見から全国的な人気へ

ハッサクの起源は、江戸時代末期の広島県因島にある浄土寺の境内にさかのぼります。時の住職である小江恵徳上人が、境内で見つけた雑柑が、ハッサクの原木とされています。因島は古くから温暖な気候と、村上水軍による海外からの柑橘類の持ち込みによって、多様な柑橘が栽培されてきました。その中で生まれたハッサクは、1886年（明治19年）、8月朔日（八朔）の頃に収穫できることからその名が付けられました。

明治時代後期には、柑橘学の世界的権威であるスウィングル博士が因島を訪れ、ハッサクの優れた特性を高く評価。これにより、ハッサク栽培は大きく促進され、全国への普及が始まりました。大正時代には因島で出荷組合が設立され、販路拡大に向けた取り組みが本格化します。しかし、昭和時代中期にはウイルス性の萎縮病が流行し、産地は大きな危機に直面します。その危機を救ったのは、ウイルスに抵抗性を持つハッサク55号の発見でした。この発見を機に、接ぎ木技術を用いた栽培方法が確立され、ハッサク栽培は再び発展を遂げました。現在でも、広島県因島では多くの農家がハッサク栽培に携わっています。


生産地：和歌山県が最大産地

ハッサクの生産は、広島県因島から始まり、昭和以降は和歌山県、愛媛県、徳島県へと広がっていきました。現在、日本における最大の産地は和歌山県であり、全国生産量の約68％を占めています。特に紀の川市や有田川町はハッサクの一大産地として知られ、みかんからの転作により生産が拡大しました。一方、原産地である広島県因島においても、現在約2000戸の農家がハッサク栽培を営んでいます。各産地では、気候や土壌などの条件に合わせて、独自の栽培技術や品種改良が進められています。


食用としての利用：独特の風味と栄養価

ハッサクの収穫期は12月～2月頃で、収穫後1～2ヶ月程度の熟成期間を経て出荷されます。果実は約400グラム程度の大きさで、果汁は少ないものの、独特の香りや甘酸っぱさとほのかな苦味が特徴です。生食が一般的ですが、苦味成分のナリンギンやノミリン、リモニンなどが熱に弱いため、加工には工夫が必要です。近年では、イオン交換技術を用いて苦味を取り除く方法が開発され、ハッサク果汁を使った加工食品も増えています。栄養価としては、ビタミンC、葉酸、カリウム、食物繊維などを豊富に含んでいます。


まとめ

ハッサクは、偶然の発見から全国的な人気を博した、歴史と魅力に富んだ柑橘です。独特の風味と栄養価は、多くの消費者に支持されており、今後もその生産と消費は拡大していくことが予想されます。今後も、各産地における技術革新や品種改良の取り組みが、ハッサクのさらなる発展に繋がっていくことでしょう。


参考文献

* 『広島県大百科事典〈下巻〉』中国新聞社、1982年。

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