ハットフィールド家とマッコイ家の争い

ハットフィールド家とマッコイ家の抗争

ハットフィールド家とマッコイ家の抗争は、1878年から1891年にかけて、アメリカ合衆国ウェストバージニア州とケンタッキー州の境界を流れるタグ・フォーク川沿いで起こった、二つの家族間の激しい争いです。この抗争は、単なる家族間のいざこざから、両州政府が介入するほどの深刻な事態へと発展し、アメリカ史に残る有名な家族間の対立として知られています。

抗争の背景

ハットフィールド家はウェストバージニア州側に、マッコイ家はケンタッキー州側に住んでいました。両家ともこの地域に初期に入植した家系であり、製材業や密造酒の販売で生計を立てていました。南北戦争時には、両家とも南部連合を支持するゲリラ活動に参加していました。ハットフィールド家は「悪魔」と呼ばれたウィリアム・アンダーソン・ハットフィールドが、マッコイ家はランドルフ・マッコイが率いていました。ハットフィールド家は比較的裕福で政治的な影響力も持っていた一方、マッコイ家も十分な財産を所有していました。

抗争の発端

歴史家の説によると、抗争の根本的な原因は1865年にアサ・ハーモン・マッコイ（ランドルフの兄弟）が殺害されたことにあります。北軍に所属していたハーモンは、ハットフィールド家の関係者から恨みを買っており、足の怪我で除隊後、自宅近くの洞窟で殺害されました。

1878年、豚の所有権を巡る争いが起こり、これが抗争の直接的な引き金となりました。フロイド・ハットフィールドが所有していた豚を、ランドルフ・マッコイが自分のものだと主張したのです。実際には、この争いは土地の境界線や所有権に関わる問題でしたが、裁判でマッコイ家は敗訴。この裁判で証言したビル・ステイトンは、後にマッコイ家の兄弟によって殺害され、争いは泥沼化していきます。

抗争の激化

抗争は、ロザンナ・マッコイとジョンシー・ハットフィールドの恋愛事件をきっかけに、さらに激化しました。ロザンナはジョンシーと駆け落ちしましたが、後にマッコイ家に戻ります。しかし、ジョンシーはロザンナを捨て、彼女のいとこと結婚。この出来事は、マッコイ家の怒りを増幅させました。

1882年、ハットフィールド家のエリソンがマッコイ家の兄弟に殺害され、アンス・ハットフィールド率いる自警団が復讐としてマッコイ家の兄弟を私刑に処しました。その後も、ラーキン・マッコイがハットフィールド家に殺害されるなど、両家の報復合戦が続きました。

1888年の新年、ハットフィールド家はマッコイ家の家を襲撃し、ランドルフ・マッコイの娘2人が死亡、妻サラが重傷を負うという惨事が発生。この事件を機に、事態は収拾不能な状況へと陥りました。

グレープヴァイン・クリークの戦い

マッコイ家はハットフィールド家への復讐を決意し、フランク・フィリップス率いる一団がハットフィールド家を襲撃。この戦闘で、ハットフィールド家の関係者が殺害され、多くが捕らえられました。ビル・デンプシーは捕らえられた場で処刑され、ハットフィールド家は大きな打撃を受けました。

抗争の終結

捕らえられたハットフィールド家の8人は、ケンタッキー州に連行され、裁判にかけられました。この事件は、アメリカ合衆国最高裁判所まで巻き込む騒動となりましたが、最終的に8人全員が有罪判決を受け、7人が禁固刑、1人が公開絞首刑となりました。この公開絞首刑は、当時としては異例の措置でしたが、両家の抗争を終結させるための措置として行われました。

1891年、ハットフィールド家とマッコイ家の抗争は終結しました。2003年には、両家の末裔が正式に停戦協定に署名し、100年以上続いた争いに終止符が打たれました。

大衆文化における影響

ハットフィールド家とマッコイ家の抗争は、アメリカの大衆文化にも大きな影響を与えました。マーク・トウェインの「ハックルベリー・フィンの冒険」に描かれる家族間の抗争や、バスター・キートンのコメディ映画、アニメなど、様々な作品でこの抗争がモチーフとして使われています。また、クイズ番組や児童書にも登場し、広く知られるようになりました。2012年には、テレビドラマ『宿敵 因縁のハットフィールド&マッコイ』として映像化され、再び注目を集めました。

観光

現在でも、抗争の舞台となった地域は観光名所として多くの人々が訪れています。ウェストバージニア州では、ハットフィールド・マッコイ・トレイルズという観光ルートも整備され、歴史と自然を楽しむことができます。

まとめ

ハットフィールド家とマッコイ家の抗争は、家族間の小さな争いが、憎しみと復讐の連鎖によって悲劇へと発展する典型的な例です。この事件は、アメリカの歴史と文化に深く刻まれ、今日においても多くの人々に語り継がれています。

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