ハビロイトトンボ

ハビロイトトンボ

ハビロイトトンボ（Megaloprepus caerulatus）は、中南米に生息するイトトンボの一種であり、ハビロイトトンボ属という単一の属を構成しています。その最大の特徴は、現生トンボとしては最大級の大きさを誇ることで、翼開長はなんと19cmにも達します。その大きさと翅の模様から、まるで「青と白に瞬くビーコン」のように見えるとも形容されます。

形態と生態

成虫の体色は暗褐色から黒色で、黄色い模様が特徴的です。翅は半透明で、先端の3分の1程度が暗青色を帯びており、その先端には白い斑点が見られます。特に雄は、暗青色の帯の内側に白い帯を持つことが特徴です。興味深いことに、ハビロイトトンボは一般的なトンボとは異なり、雄の方が雌よりも大きいという特徴があります。腹部の長さは約10cm、翼開長は最大19cmに達し、その巨大さは一目瞭然です。

ただし、体の大きさは地域によって異なり、パナマのバロ・コロラド島の個体は、コスタリカのLa Selva Biological Stationやベラクルス州のLos Tuxtlasの個体よりも小さい傾向があります。成虫の寿命は最大で7ヶ月とされています。

食性

ハビロイトトンボは、同じハビロイトトンボ科に属する他の種と同様に、造網性のクモを主な餌としています。狩りを行う場所は、直射日光が差し込む林間の開けた場所（林間ギャップ）です。これは、クモの巣を視認しやすくし、自身が巣に絡まるのを防ぐためだと考えられています。狩りの際には、まずクモに正対し、後退します。次に、高速で飛び出して脚でクモを捕獲し、再び後退して巣から離れます。その後、クモの脚を取り外してから食べるという、独特の捕食行動を見せます。

繁殖

ハビロイトトンボは、樹洞に溜まった水（ファイトテルマータ）に産卵します。雄は、水量の多い巨大な樹洞を縄張りとし、そこに産卵に訪れる雌と交尾を行います。巨大な樹洞は、多数のヤゴが生息できる、餌となる生物の密度が高い、乾季でも水が枯渇しないなど、ヤゴにとって様々な利点があります。その結果、小さな樹洞からは年に1-2回しか成虫が羽化できないのに対し、大きな樹洞からは年に3回、数十匹もの成虫が羽化することが可能です。

また、大きな樹洞では、成長の遅い近縁種であるハラナガイトトンボ属（Mecistogaster）が存在する場合でも、ハビロイトトンボの生存率が向上します。小さな樹洞では、後に孵化した他種や他個体が駆逐されてしまいますが、大きな樹洞では逃げ場が多いため、ハビロイトトンボは成長の速さを活かして他種よりも優位に立つことができるのです。さらに、獲物が多いことから、大きな樹洞から羽化した雄は大型になる傾向があり、性成熟時に広い縄張りを確保することができます。

雄は他の雄に対して追跡や体当たりを仕掛け、自身の縄張りを守ります。雌に対しては、自身と交尾する前に樹洞を利用することを許しませんが、縄張りから離れる雌を追うことはありません。交尾器の形態から、他のトンボと同様に、交尾時に他の雄の精子を掻き出すことができると考えられています。雌は体の大きさを基準に交尾相手を選ばず、小型の雄との交尾後に、縄張り外の樹洞に産卵することもあります。

幼生（ヤゴ）

卵は、最短で18日、最長で半年かけて孵化します。この孵化時期のずれは、樹洞内の捕食者がいない時に孵化する確率を上げるための適応と考えられています。ヤゴは他のトンボと同様に肉食性で、主にボウフラを餌としますが、オタマジャクシ、ハナアブやユスリカの幼虫、他のヤゴなども捕食します。溶存酸素の少ない環境に適応するため、腹端の尾鰓は幅広く、細かい褶があります。各尾鰓には白い斑点があり、他のヤゴと容易に区別できます。

1つの樹洞には最大で13匹、1匹あたり約250個の卵が産み付けられますが、ヤゴは共食いを行うため、最終的には水1-2リットル中に1個体程度の密度となります。ただし、縄張りは持ちません。

保護の現状と重要性

ハビロイトトンボは長距離の飛行が苦手なため、開けた草地に出ることがありません。そのため、生息地を拡大することが難しく、生息地の分断化が懸念されています。しかし、樹洞さえあれば二次林でも繁殖できるため、生息環境の保全が重要となります。また、ヤゴがボウフラを捕食することで、衛生害虫である蚊の個体数を抑制する効果も期待されており、この点からもハビロイトトンボの保護には大きな意義があります。

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