ハプログループI (Y染色体)

Y染色体ハプログループI-M170：ヨーロッパ人の歴史を語る遺伝子系統

Y染色体ハプログループI-M170は、分子人類学において人類の父系をたどる上で重要な指標となる遺伝子系統です。ハプログループIJの子系統であり、複数の遺伝子変異によって定義されます。ヨーロッパに高頻度で分布しており、特にI1系統は北欧、I2系統はバルカン半島に多く見られます。ヘルツェゴヴィナ人では63.8％、ルーマニア人では48.1％、ボスニア人では42％、ノルウェー人では40.3％、スウェーデン人では40％もの割合を占めるなど、ヨーロッパにおける分布の広さが際立ちます。

ハプログループC1a2に次いでヨーロッパに広まった系統と考えられており、およそ32,000～22,000年前にはすでにヨーロッパに到達していたと推定されています。考古学的文化との関連性も示唆されており、コンゲモーゼ文化、スウィデリアン文化、クンダ文化の担い手であった可能性が指摘されています。

I系統のサブグループと地理的分布

I-M170系統は、主にI1とI2という2つの主要なサブグループに分類されます。

I1系統: 北欧地域に高い頻度で分布しています。新石器時代にはヨーロッパ中部にも分布していましたが、その後北欧へと広がっていったと考えられています。
I2系統: ヨーロッパ中南部に多く見られます。バルカン半島周辺での頻度が高いことが特徴です。

これらの地理的分布パターンは、過去のヨーロッパの人々の移動や集団間の相互作用を反映していると考えられます。

古代人との関連性

約13,000年前のスイスで発見されたクロマニョン人の遺伝子分析の結果、ハプログループI2aに属することが明らかになりました。このことから、ハプログループIは、ヨーロッパの先住民族であるクロマニョン人の遺伝子系統に由来することが示唆されています。

文化と技術の受容

ハプログループI系統を持つ人々は、ヨーロッパの先住系の狩猟採集民であったと考えられています。しかし、後からヨーロッパにもたらされた農耕技術や巨石文明も受け入れており、巨石記念物の建設にも携わっていた可能性があります。ハプログループG2aとともに、巨石記念物からI2a系統が検出されているという研究結果もあります。これは、異なる遺伝子系統の人々が文化交流や技術革新を共有していたことを示唆しています。

形質との関連性

ハプログループI、特にI1系統は、青眼や金髪といった体質的特徴との関連性が指摘されています。これらの特徴の遺伝子的な基盤を解明する上で、ハプログループIの分析は重要な役割を果たしています。また、ヨーロッパにおける高身長地域とハプログループIの分布が重なることから、身長との関連性も示唆されています。

まとめ

Y染色体ハプログループI-M170は、ヨーロッパ人の歴史と深く関わる重要な遺伝子系統です。その地理的分布、古代人との関連性、文化・技術との関わり、そして体質的特徴との関連性など、様々な角度から研究が進められており、今後の研究によってヨーロッパ人の歴史と進化の理解がさらに深まることが期待されます。

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