ハヤシ百貨店

ハヤシ百貨店は、山口県出身の経営者・林方一によって1932年12月5日に、日本統治時代の台湾、台南市末広町2丁目（現在の台南市中西区忠義路2段63號）に設立された百貨店です。創業当時は「林百貨店」または「林デパート」とも呼ばれていました。

この百貨店は、当時台南で唯一の近代的なエレベーターを備えた建物であり、地元では「五層樓仔」（5階建てのビル）とも呼ばれていました。台北の菊元百貨店と並び、南北二大百貨店と称されるほど、その存在感は際立っていました。設計は石川県出身の建築家・梅澤捨次郎が担当し、鉄筋コンクリート造りの6階建てという当時としては最先端の建築技術が用いられました。1階から4階は売場、5階にはレストラン、6階には機械室と展望台、そして屋上には庭園と神社が設けられていました。屋上の神社は、開業半年後に完成し「末広社」と呼ばれ、産業の守り神として人々の信仰を集めましたが、一般には公開されていませんでした。

百貨店が位置していた末広通りは、当時台南で最も賑やかな通りであり、「銀座通り」とも呼ばれていました。しかし、1945年3月1日、連合国軍による大規模な空爆により、屋上や神社、外壁、床などが大きな損傷を受けました。戦後、建物は改修され、台湾製塩総工場、空軍、警察の派出所などに使用されましたが、1980年代からは空きビルとなっていました。

1998年6月26日、台南市によって市定古跡に認定され、2010年1月から修復作業が開始、2013年1月に完了しました。修復に際しては、創業当時の姿が可能な限り再現され、米軍の空爆による損傷箇所や当時の床材の一部が記録として残されました。また、屋上にあった邸内神社も「林百貨頂楼神社遺跡」として保存されています。

2013年7月には、公募により台南市のファッションビル「フォーカス・スクエア」を運営する高青開発株式会社が、この建物を賃貸することが決定しました。同年8月には修復された内部が期間限定で一般公開され、夜間にはライトアップも行われました。

2014年6月14日、ハヤシ百貨店は、特産品販売施設「林百貨」として新たなスタートを切りました。このリニューアルを通じて、文化創造の新しいスタイルを発信する場として再活用されています。

百貨店の西側には、梅澤捨次郎が設計した「末廣町商店兼住宅」が百貨店と一体化して建てられており、戦後は「兜空間」と呼ばれていました。2021年秋には、この「兜空間」の外壁なども修復され、両棟の一体感が強化されました。修復費用の約70％にあたる約123万ニュー台湾ドルは、台南市政府文化局の補助金から拠出されています。

アクセス

• - 台鉄台南駅から徒歩の場合：中山路・湯德章紀念公園（ロータリー）経由で約17分
• - 台鉄台南駅からバスの場合：約5～6分（大台南公車・紅幹線、紅2、府城客運・1路、7路、19路、共に「林百貨（中正路）」下車）
• - 台鉄台南駅からタクシーの場合：約5～6分
• - 国立台湾文学館から徒歩約3分
• - 台南孔子廟から徒歩約5分

脚注

• - 外部リンク

- 林百貨
- 記録映画『念念、林百貨』 - 元従業員の石允忠の回想を中心とした短編フィルム。
- 記録映画『五層樓仔傳奇』 - 修復の様子を追った短編。

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