ハリケーン (Hurricane)
1980年代に
アメリカ合衆国で結成されたヘヴィメタル・バンド、ハリケーンは、その後の音楽シーンで重要な役割を果たすことになるメンバーを擁していました。バンドの創設には、
クワイエット・ライオットのギタリスト、カルロス・カヴァーゾの弟である
ベーシストのトニー・カヴァーゾと、同じく
クワイエット・ライオットの
ベーシスト、
ルディ・サーゾの弟であるギタリストのロバート・サーゾが深く関わっています。彼らは
クワイエット・ライオットのボーカリストである
ケヴィン・ダブロウの紹介で引き合わされました。
バンドを結成することを決めたトニーとロバートは、シンガーの
ケリー・ハンセン(後に
フォリナーで成功を収める)、ドラマーの
ジェイ・シェレン(
エイジアなど様々なバンドで活躍)、そしてギタリストのマイケル・ガイを迎え入れました。当初、レコード会社からの注目は限定的で、彼らはデビュー・アルバム『TAKE WHAT YOU WANT』を自主制作し、精力的なツアー活動を展開しました。この粘り強い活動が実を結び、バンドは最終的にメジャーレーベルとの契約を獲得することになります。
バンドの人気は徐々に高まっていきました。
1986年から
1987年にかけては、人気バンド、ストライパーのアルバム『トゥ・ヘル・ウィズ・ザ・デヴィル』発表に伴うツアーで
オープニングアクトを務めました。このツアーでの実績が評価され、ストライパーと同じエニグマ・レコードと契約。さらに
1987年には、伝説的なギタリスト、
ゲイリー・ムーアの全米ツアーでも
オープニングアクトに抜擢されるなど、注目度を高めていきました。
1988年、バンドはメジャー・デビュー作となるアルバム『オーバー・ジ・エッジ』を
リリース。この作品は、パワフルさとメロディを兼ね備えたサウンドでリスナーを魅了し、
Billboard 200アルバムチャートで92位にランクインする成功を収めました。アルバムからは、アリス・クーパーの
カバー「I'm Eighteen」が話題を集めたほか、ジェフ・ジョーンズが手掛けた楽曲で、バンド史上最大のヒットとなった「I'm On to You」(全米シングルチャート33位を記録)、そしてタイトルトラックの「オーバー・ジ・エッジ」が
シングルカットされました。
しかし、バンドはメンバーチェンジの時期を迎えます。
1989年にはロバート・サーゾが脱退し、後任として元ライオンのギタリスト、
ダグ・アルドリッチが加入しました。この新たなラインナップで制作されたアルバム『スレイヴ・トゥ・ザ・スリル』が
1990年に
リリースされました。米国の音楽情報サイトである
オールミュージックは、このアルバムをバンドの特に注目すべき作品として挙げていますが、商業的な面では前作『オーバー・ジ・エッジ』ほどの成功は収められませんでした。これは当時の音楽を取り巻く状況の変化、特にオルタナティブ・ロックや
グランジの台頭といった要因も影響していると考えられます。『オーバー・ジ・ジ・エッジ』と『スレイヴ・トゥ・ザ・スリル』のどちらがバンドの代表作かという議論は、ファンの間では現在も続いています。アルバム
リリース後間もなく、
ダグ・アルドリッチはハウス・オブ・ローズへ移籍し、残されたメンバーも、当時急激に勢力を拡大していた
グランジ・ムーブメントの波に押され、バンドの活動は事実上停止せざるを得ませんでした。
バンドの活動停止後も、メンバーは音楽業界で精力的に活動を続けました。ドラマーの
ジェイ・シェレンは、アンルーリー・チャイルドやサークル・オブ・サイレンスのレコーディングやツアーで多忙を極め、クリス・スクワイアのコンスピラシー、
ビリー・シャーウッドのサーカといったプロジェクトにも参加。2005年からは、ジョン・ペインを中心とした
エイジアに参加し、後に「
エイジア・フィーチュアリング・ジョン・ペイン」として活動しました。ボーカルの
ケリー・ハンセンは、名門ロックバンド、
フォリナーのフロントマンとして加入し、長期にわたり成功を収めています。ギタリストの
ダグ・アルドリッチは、元ライオンのボーカリスト、カル・スワンと共にバッド・ムーン・ライジングを結成したほか、ディオや
ホワイトスネイクといった著名なバンドでもその名を轟かせました。再結成の動きもあり、2001年にはシェレンとハンセンを中心に、ギタリストのショーン・マニング、
ベーシストのラリー・アントニオを迎えてアルバム『リキフリー』を発表しています。
2010年代に入ると、オリジナルメンバーであるロバート・サーゾとトニー・カヴァーゾが再びハリケーンを再始動させ、シンガーのアンドリュー・フリーマン、ドラマーのマイク・ハンセンをメンバーに加えてツアー活動を予告しました。また、ロバート・サーゾは2013年から2014年にかけて、ジェフ・テイトが率いるクイーンズライクにもギタリストとして参加し、時にはハリケーンとのジョイントツアーを行うなど、その活動は多岐にわたっています。