ハリー・サイドラー

ハリー・サイドラー（Harry Seidler, 1923年6月25日 - 2006年3月9日）は、オーストリア・ウィーン生まれの建築家です。1948年にアメリカからオーストラリアへ移住し、同国における現代建築の発展に大きく貢献しました。

人物

サイドラーは、オーストラリア国内外で住宅や商業ビルなどの重要な建築物を数多く手掛けました。彼の建築は、新しいアイデアや技術を積極的に導入し、特にシドニーの建築シーンに革新をもたらしました。1976年にはオーストラリア建築家協会（RAIA）のゴールドメダル、1996年には英国王立建築家協会（RIBA）のゴールドメダルを受賞しています。これらの受賞は、彼の建築家としての卓越した才能を物語っています。

サイドラーの建築は、エレガントで美しい単純な線、そして理論的で明確なコンテンポラリー建築として特徴づけられます。高層建築を「トーテムポール」と捉え、人々から尊敬されるべきものだと考えていました。彼の作品には、ヨーロッパのバウハウスの影響が色濃く見られますが、同時にオーストラリアの風景からインスピレーションを得た独自の要素も含まれています。彼の建築は、自信、斬新さ、技術力の融合であり、まさに詩のような存在です。しかし、その信念は時として官庁との議論を引き起こし、メディアからの批判を受けることもありました。

ユダヤ人であったサイドラーの幼少期は、必ずしも平穏ではありませんでした。ナチスから逃れるため、15歳で故郷のウィーンを離れイギリスへ渡り、その後カナダの収容所に送られました。終戦後、マニトバ大学を卒業し、ハーバード大学ではウォルター・グロピウスに師事しました。この時期に、彼のモダニズムへの情熱が育まれました。25歳でオーストラリアに渡ったサイドラーは、同国で最も重要な建築家の一人となります。彼の成功は、限られた予算の中で現実的な建築物を設計する能力によるものでした。彼はオーストラリア・スクエアによって、シドニーに新しい都市空間のあり方を提示しました。

ブリスベンのリバーサイド、パースのQVI、シドニーのMLCセンター、ホライゾン・アパート、グローヴナー・プレイス、コーヴ・アパートなど、彼の作品はどれも建築でありながら、彫刻のような美しさを放っています。香港のホンコンクラブ、パリのオーストラリア領事館、ウィーンのウォンパーク・ドナウ川では、鉄筋コンクリートを駆使し、構造と空間の調和を完璧なまでに表現しました。晩年の作品では、17世紀のバロック建築家、フランチェスコ・ボッロミーニからインスピレーションを得て、円や曲線が多く用いられています。

特に、1948年に母親のために設計したローズ・サイドラー邸は、彼のキャリアにおける代表作です。バウハウスの教科書的な存在でありながら、サイドラーの個性を色濃く反映したこの作品は、現在も重要文化財として保存されています。また、彼の自宅もフランク・ロイド・ライトの落水荘を彷彿とさせる、小川とブッシュに突き出した形で建てられました。

サイドラーのキャリアはオーストラリアで築かれましたが、アメリカン・アクセントが残っていたように、彼は海外の文化の影響を常に意識し、真のオーストラリア人になることはありませんでした。1996年に英国建築協会からロイヤル・ゴールドメダルを受賞した際、ノーマン・フォスターは「彼の建築は特別であり、コンクリートを彫刻に変えることができる詩人である」と称賛しました。

サイドラーは、妻ペネロピーとの間にティモシーとポリーをもうけました。

外部リンク

Harry Seidler official website
Harry Seidler : biography

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