ハロモナス・ティタニカエ

ハロモナス・ティタニカエ（Halomonas titanicae）

ハロモナス・ティタニカエは、プロテオバクテリア門に属するハロモナス科の細菌です。この細菌は、1912年に豪華客船タイタニック号が沈没した際、その残骸が海底に形成した赤錆、通称ラスティクル（Rusticle）から2010年に発見されました。その名前は、タイタニック号に由来しており、ラテン語で「タイタニックの」を意味する「ティタニカエ」に命名されています。

発見の背景

ハロモナス・ティタニカエは、タイタニック号の残骸から得られたラスティクルサンプルの中で確認されました。このラスティクルは、オレンジ色の酸化水酸化鉄(III)と赤色の酸化鉄(III)から成り立っており、これまで数十種類の微生物が存在することがわかっていましたが、詳細な分類はなされていませんでした。ダルハウジー大学のヘンリエッタ・マンと当時の大学院生バーブリーン・カウルが、1991年に採取したサンプルの中からこの細菌を特定し、新種であることを確認しました。また、このラスティクルがハロモナス・ティタニカエによって生成されたことも判明しています。

生態的特徴

この細菌は楕円形をしており、長さは1.5から6.0μm、短径は0.5から0.8μmです。腐食生成物であるラスティクルの形成に寄与する一因として、ハロモナス・ティタニカエの特異な環境適応能力が挙げられます。さらに、次のような生育条件があります:

• - 生育温度: 4～42℃（最適温度は30～37℃）
• - pH範囲: 5.5～9.5
• - NaCl濃度: 0.5～25 wt%（最適NaCl濃度は2～8 wt%）

この細菌は、鉄を代謝活動のエネルギー源として利用するイメージがありますが、実際には鉄を直接摂取するのではなく、鉄を酸化することによってエネルギーを得ています。タイタニック号に残された約5万トンの鉄の塊が感染源となっており、鉄部分は腐食が進行し、背丈ほどにもなる巨大なラスティクルが形成されています。一方、真鍮でできた部分は腐食されていないため、ハロモナス・ティタニカエが鉄を特異的に代謝することが伺えます。

今後の影響

マンによると、ハロモナス・ティタニカエの鉄の分解速度は不明ですが、推定では今から20年から30年の間にタイタニック号の構造は分解され、最終的には鉄さびの塊となる見込みです。

この細菌が、歴史的遺産であるタイタニック号を破壊する可能性があることは懸念されています。しかし、逆にこの現象は、海底に残されている鉄製の船舶や石油掘削機、貨物などが時間とともに分解されることを示唆しており、未来の海洋環境における生物の影響を考慮すべき重要な指標となるかもしれません。さらに、ハロモナス・ティタニカエに関する研究は、石油プラントの腐食防止や、新たな船舶の処理方法の開発に寄与する可能性も秘めています。

タイタニック号が存在する深海の約3800mの深さに生息するハロモナス・ティタニカエは、同じハロモナス科の他の種が見られないことも興味深い点です。これにより、環境適応や生態系の影響を探る新たな研究分野が開かれるかもしれません。

もう一度検索