ハロルド・ユージン・エジャートン

ハロルド・ユージン・エジャートン：瞬間を捉えた科学者

ハロルド・ユージン・エジャートン（Harold Eugene Edgerton, 1903年4月6日 - 1990年1月4日）は、マサチューセッツ工科大学（MIT）で電気工学の教授を務めたアメリカの科学者、発明家、そして写真家です。彼は、ストロボスコープを単なる実験器具から、広く利用される技術へと変革したことで最もよく知られています。エジャートンは、高速で動く物体の瞬間を捉える技術を開拓し、科学研究だけでなく芸術分野にも大きな影響を与えました。

生い立ちと教育

1903年、ネブラスカ州フリーモントで生まれたエジャートンは、弁護士でジャーナリストの父フランクと母メアリーの間に生まれました。彼の先祖には、メイフラワー号の乗客でありプリマス植民地を設立したウィリアム・ブラッドフォードも含まれています。エジャートンはネブラスカ州オーロラを中心に育ち、1925年にネブラスカ大学リンカーン校で電気工学の学士号を取得しました。その後、MITに進学し、1927年に修士号、1931年にはストロボスコープを用いた同期電動機の研究で理学博士号を取得しました。エジャートンは、チャールズ・スターク・ドレイパーから電子フラッシュを使って日常的な対象物を撮影するアイデアを得たと語っています。

ストロボスコープの革新

エジャートンはストロボスコープの可能性を追求し、その技術を高速撮影に応用しました。彼は、水滴が跳ねる瞬間、風船が破裂する様子、弾丸が物体を貫通する瞬間など、肉眼では捉えられない現象を鮮明に写真に収めました。これらの写真は、科学的な記録としての価値だけでなく、その美しさから芸術作品としても高く評価されています。

ジョン・ミリとの共同研究とEG&G設立

1937年、写真家のジョン・ミリと共同で、ストロボスコープを写真撮影に活用する研究を始めました。ミリのスタジオに設置された複数の電子フラッシュを使用し、ライフ誌に掲載されるような画期的な写真を撮影しました。このマルチフラッシュ撮影では、ストロボスコープが毎秒120回もフラッシュすることが可能でした。エジャートンは、この技術を用いて、瞬間を捉える写真の先駆者となりました。また、エジャートンはKenneth J. Germeshausen、Herbert Grierとともに、コンサルティング会社Edgerton, Germeshausen, and Grier（EG&G）を設立しました。EG&Gは、アメリカ原子力委員会と契約し、核実験の写真撮影や記録に重要な役割を果たしました。また、超高速カメラ「Rapatronic」を開発しました。

海底探査と水中撮影への貢献

エジャートンの技術は、海底探査や水中撮影にも活用されました。彼は、側方走査ソナー技術の発展に貢献し、難破船の発見に役立ちました。また、海洋探検家のジャック＝イヴ・クストーに、電子フラッシュを搭載した最初の水中撮影用カメラを提供し、沈没船ブリタニックの探索を支援しました。また、南北戦争で沈没した戦艦USSモニターの探索にも参加しました。クストーとの共同作業の中で、エジャートンは「パパ・フラッシュ」という愛称で呼ばれるようになりました。

教育者としてのエジャートン

エジャートンはMITで教鞭を執り、学生に人気のある教授でした。彼の教育理念は、「学生に学んでいることを気づかせないように学ぶこと」でした。MITの学生寮の一つには、彼の名前が付けられています。1987年には、ナショナルジオグラフィック誌で「時間を止めた男」として特集されました。

家族と死

1928年、エスター・メイ・ギャレットと結婚し、3人の子供をもうけました。エスターはネブラスカ大学リンカーン校で数学、音楽、教育学の学士号を取得し、ピアノと声楽が得意でした。エジャートンは1990年1月4日にマサチューセッツ州ケンブリッジで急逝し、マウント・オーバーン墓地に埋葬されました。

後世への影響

エジャートンの業績は、科学技術だけでなく、芸術にも大きな影響を与えました。彼の写真は、世界各地の美術館で展示されています。彼の名を冠したEdgerton Explorit Centerは、ネブラスカ州オーロラで、科学を体験できる場として運営されています。また、MITには、学部生と大学院生が実践的な研究を行うためのEdgerton Centerが設置されています。このセンターは、高校生や教員向けの教育プログラムも提供しています。

受賞と栄誉

エジャートンは、ストロボスコープを使った写真撮影の功績により、多くの賞を受賞しました。1934年に英国王立写真協会から銅メダル、1941年にフランクリン協会からハワード・N・ポッツ・メダル、1969年にアルバート・A・ミケルソンメダルを授与されました。また、1973年にアメリカ国家科学賞、1981年に国際光工学会ゴールドメダル、1988年にアメリカ国家技術賞を受賞しています。さらに、1986年には全米発明家殿堂入りを果たしました。

主な著作と写真作品

エジャートンの主な著作には、『Flash! Seeing the Unseen by Ultra High-Speed Photography』（1939）、『Electronic Flash, Strobe』（1970）、『Moments of Vision』（1979）、『Sonar Images』（1986）、『Stopping Time』（1987）などがあります。彼の代表的な写真作品には、「Football Kick」（1938）、「Diver」（1955）、「Milk Drop Coronet」（1957）、「Cranberry Juice into Milk」（1960）、「Moscow Circles」（1963）、「Bullet Through Banana」（1964）、「.30 Bullet Piercing an Apple」（1964）、「Cutting the Card Quickly」（1964）、「Pigeon Release」（1965）、「Bullet Through Candle Flame」（1973）などがあります。

ハロルド・ユージン・エジャートンは、科学技術の進歩に貢献するとともに、その技術を使って美的な作品を生み出した、類まれな人物でした。

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