ハワード・ラトニック

ハワード・ウィリアム・ラトニック：実業家、政治家、そしてトランプ政権の要

ハワード・ウィリアム・ラトニック（Howard William Lutnick, 1961年7月14日 - ）は、アメリカ合衆国の実業家であり政治家です。彼は現在、トランプ政権下で商務長官（第41代）を務めています。以前は、証券会社キャンター・フィッツジェラルドの最高経営責任者（CEO）として手腕を振るいました。

生い立ちと学歴

ラトニックはニューヨーク州ロングアイランドで、ユダヤ系の家庭に生まれました。父親のソロモンはニューヨーク市立大学クイーンズ校の歴史学教授、母親のジェーンはロングアイランド大学で教鞭を執る芸術家でした。彼は1983年にハバフォード大学で経済学の学士号を取得しました。

キャリア

大学卒業後、ラトニックは米ドルと日本円の両替商としてキャリアをスタートさせました。そこでB・ジェラルド・キャンターと出会い、1983年にキャンターが経営するキャンター・フィッツジェラルドに入社しました。1991年には社長兼CEOに任命され、その経営手腕を発揮しました。

9.11テロと慈善活動

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件は、ラトニックにとって大きな転機となりました。ワールドトレードセンターに本社を置いていたキャンター・フィッツジェラルドは、このテロでオフィスが破壊され、従業員の多くが犠牲となりました。ニューヨークの従業員960人のうち658人が死亡または行方不明となり、ラトニック自身も兄弟のゲイリーを失いました。この悲劇の後、ラトニックは慈善事業に積極的に取り組み、巨額の寄付を行うことで知られるようになりました。

政治との関わり

ラトニックは、政治の世界にも深く関わっています。2020年アメリカ合衆国大統領選挙では、トランプ大統領の再選を支援するために500万米ドル以上を集めるなど、積極的に募金活動を主催しました。過去にはヒラリー・クリントンやカマラ・ハリスにも献金したことがありますが、彼はこれを妻によるものと主張しています。

2024年アメリカ合衆国大統領選挙では、トランプ大統領の返り咲きを支援するために1500万ドルを調達し、政権移行チームの共同議長に任命されました。政権移行チームでは、トランプに忠実な人材を重視し、候補者の情報をレクチャーするなど、トランプ政権の樹立に貢献しました。また、ロバート・ケネディ・ジュニアの主張に同調して物議を醸したり、トランプの集会で高関税政策を支持する演説を行うなど、積極的に政治活動を展開しました。次期財務長官人事では、イーロン・マスクやケネディとともにラトニック自身が候補に挙がりましたが、最終的にはスコット・ベッセントが選ばれました。

商務長官として

2024年11月、トランプ次期大統領から次期商務長官に指名され、アメリカ合衆国通商代表部（USTR）にも直接の責任を負いながら関税・貿易政策の指揮を執ることになりました。2025年2月18日に上院で承認され、21日に就任宣誓を行い、正式に商務長官に就任しました。キャンター・フィッツジェラルドは中国の企業と関係があるため、利益相反の懸念が示されていましたが、指名承認に伴いCEOの職を辞任し、経営を息子たちに託しました。上院商務・科学・運輸委員会の人事承認公聴会では、品目別ではなく、国別に10％の相互関税を賦課することをトランプに進言したと述べ、中国製人工知能（AI）のDeepSeekに関しては、関税に裏打ちされていない輸出規制を迂回して開発されたと主張し、強力に対応していくことを表明しました。

トランプ政権の経済政策への影響

2025年3月3日、半導体メーカーのTSMCが1000億ドルの追加対米投資を発表した際、ラトニックはこれを関税の効果であると強調しました。また、選挙期間中には、中国とのより大規模な貿易協定を模索するよう個人的にトランプを促すなど、トランプの経済・産業政策について各国の政府や企業と非公開で交渉していたと報じられました。インテルの工場運営にTSMCを参画させるための議論にも関与したとされています。

2025年3月12日には、日本を含む全世界から輸入する鉄鋼・アルミニウム製品を対象とする25％の関税を発動し、FOXテレビに出演して「日本は鉄鋼をダンピングしている」と批判しました。さらに、全ての国から輸入される自動車に関税を課す意向を表明し、親交のあるイーロン・マスクが経営する米テスラ社の株式購入を呼びかけるなど、その政策は物議を醸しています。

ハワード・ラトニックは、実業家、政治家として、そしてトランプ政権の要として、アメリカの経済・貿易政策に大きな影響を与え続けています。

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