ハンガリー・ルーマニア戦争

ハンガリー・ルーマニア戦争（1919年）

ハンガリー・ルーマニア戦争は、第一次世界大戦終結後の1918年から1919年にかけて、ハンガリーとルーマニア王国の間で繰り広げられた戦争です。この戦争は、両国間の領土問題や政治情勢が複雑に絡み合い、激しい戦闘が展開されました。

背景

ハンガリー

1918年、オーストリア＝ハンガリー帝国が崩壊し、ハンガリーは独立を宣言しました。しかし、国内は混乱し、政治的にも不安定な状況が続いていました。同年10月にはカーロイ・ミハーイ伯爵が首相に就任しましたが、彼は軍の武装解除を命じ、ハンガリーは無防備な状態となりました。その後、領土割譲を求める連合国の圧力により、1919年3月にはクン・ベーラ率いる共産党が権力を掌握し、ハンガリー評議会共和国が成立しました。共産党は平等と社会的公正を掲げ、国内の支持を集めようとしましたが、軍事的な面では、当初の赤軍は組織化された武装勢力であったものの、愛国心によって結束した国民軍へと変貌を遂げていきました。

ルーマニア

ルーマニアは第一次世界大戦で連合国側として参戦しましたが、国土の大半を占領され、敗北を喫しました。しかし、1918年にロシアが単独講和条約を結んだことで、ルーマニアは再び連合国側として参戦し、ルーマニア民族が住む地域を統合することを目標に掲げました。フェルディナンド1世国王はルーマニア軍を動員し、トランシルヴァニアへの進撃を命じました。第一次世界大戦終結後もルーマニア軍の戦闘は続き、ハンガリー・ルーマニア戦争へと発展していきました。

戦争の概要

ハンガリー・ルーマニア戦争は、大きく3つの段階に分けることができます。

第一段階（1918年11月～1919年3月）

ルーマニア軍はカルパチア山脈西部へ進出し、トランシルヴァニアを占領しました。この間、両軍の間では小競り合いが発生しました。トランシルヴァニアでは、ルーマニア民族がルーマニアとの合併を宣言し、ザクセン民族もそれに続きました。ルーマニア軍は連合国の許可を得て、カルパチア山脈西部に進駐し、主要都市を占領しました。連合国理事会はルーマニア軍に対し、新たな境界線を提示しましたが、これはルーマニアがハンガリーに要求する地域であり、ハンガリー政府は受け入れを拒否しました。この通告を受け入れられなかったカーロイ政権は退陣し、クン・ベーラが権力を掌握して共産体制を樹立しました。

第二段階（1919年4月～1919年6月）

ハンガリーで共産主義政権が成立した後、ルーマニア軍はハンガリー軍を打ち破り、ティサ川に到達しました。クン・ベーラはルーマニア、チェコスロバキアと戦うための軍隊を編成しようとしましたが、ルーマニア軍は連合国の決定に従わせるべく軍事行動を開始しました。ルーマニア軍は北方と南方に分かれ、ハンガリー軍の精鋭部隊を分断する作戦を立てました。ハンガリー軍は先制攻撃を試みましたが、ルーマニア軍の予備部隊によって阻止されました。ルーマニア軍は反撃に出て、カレイ、オラデア、サロンタなどの都市を占領し、連合国が提示した線に到達しました。ルーマニア軍は軍事的な理由から、この線を越えてティサ川まで進撃することを決定しました。ルーマニア軍はティサ川に到達し、ハンガリー軍に休戦を申し出ましたが、ルーマニアは連合国の圧力により休戦のみを提案しました。一方、クン・ベーラは対ルーマニア戦を一時中断し、チェコスロバキアへの攻撃を開始しました。ルーマニア軍はハンガリー軍の側面を攻撃しましたが、チェコスロバキア軍の敗走を食い止めることはできませんでした。ハンガリー軍は上ハンガリーに傀儡国家スロバキア・ソビエト共和国を樹立しましたが、ルーマニア軍はティサ川東岸に後退しました。

第三段階（1919年7月～1919年8月）

ルーマニア軍はハンガリー軍を壊滅させ、ブダペストを占領しました。連合国理事会はルーマニア軍のティサ川までの進撃に反発しましたが、ルーマニア政府はティサ川を軍事上の境界線として主張しました。理事会はクン政権にチェコスロバキアへの攻撃を止めるよう圧力をかけ、ハンガリーは休戦協定を結びました。ルーマニアは動員解除を拒否し、クン・ベーラは軍の力のみに頼ることを決めました。ハンガリー軍はティサ川を越えて攻撃を再開しましたが、ルーマニア軍は反撃に出て、ハンガリー軍を撃退しました。ルーマニア軍はティサ川を渡河し、ハンガリー軍は崩壊しました。ルーマニア軍はブダペストを占領し、クン・ベーラは亡命しました。

戦闘の詳細

ルーマニア軍の進撃とハンガリー軍の反撃

ルーマニア軍は第一次世界大戦の経験を活かし、効果的な機動戦術を展開しました。ハンガリー軍は当初、ルーマニア軍の侵攻を阻止しようとしましたが、ルーマニア軍の攻撃を前に防戦一方となりました。しかし、ハンガリー軍も精鋭部隊や愛国心に燃える兵士を擁しており、ルーマニア軍に対して激しい抵抗を試みました。特に、セーケイ師団はルーマニア軍を苦しめましたが、最終的にはルーマニア軍によって包囲され、降伏しました。

ソ連の介入

ソ連はルーマニアに対し、ベッサラビアからの撤退を要求し、ドニエストル川に軍を集結させました。しかし、ソ連赤軍は他の戦線での戦闘で手一杯であり、ルーマニアと本格的に戦う余力はありませんでした。このソ連の介入はルーマニア軍を牽制しようとするものでしたが、ルーマニア軍はベッサラビアに十分な兵力を配置していたため、ソ連の攻撃を防ぎました。

ハンガリー軍の崩壊

ルーマニア軍がティサ川を渡河した後、ハンガリー軍は総崩れとなり、ブダペストへ向けて撤退を開始しました。ルーマニア軍はブダペストを占領し、クン・ベーラは亡命しました。ハンガリー赤軍は解体され、その勢力は完全に失われました。

戦後

戦争終結後、ハンガリーは連合国によって厳しい休戦協定を押し付けられました。ルーマニア軍はブダペストからの撤退時に大規模な略奪を行い、ハンガリーの軍需物資やインフラを奪いました。ハンガリー・ルーマニア戦争は、ルーマニアに大きな勝利をもたらしましたが、ハンガリーには大きな損害を与えました。

戦闘序列

第一段階

ルーマニア軍:
第1山岳猟兵師団
第2山岳猟兵師団
第7山岳猟兵師団
第6歩兵師団
第16歩兵師団
第18歩兵師団

第二段階

ルーマニア軍:
北方集団（モショイウ将軍）
南方集団（マルダレスク将軍）

第三段階

ルーマニア軍:
北方集団
南部集団
軍予備
ハンガリー軍:
北方集団
中央集団
南方集団
軍予備

参考文献

C. Kiriţescu: Istoria războiului pentru întregirea României, Vol. II, ed. Romania Noua, 1923
Moldova: A Romanian Province Under Russian Rule : Diplomatic History from the Archives of the Great Powers, Algora Publishing 2002
Grecu Dan: The Romanian military occupation of Hungary
A Country Study: Romania, Federal Research Division Library of Congress, 1989
Maria Ormos: The Hungarian Soviet Republic and Intervention by the Entente.
Pygmy Wars: Soviet Hungarian War 1919

関連項目

小協商
トリアノン条約
カール1世の復帰運動
ナチス・ドイツによるチェコスロバキア解体
第二次ウィーン裁定

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