ハンガーフォード橋とゴールデン・ジュビリー橋

ハンガーフォード橋：テムズ川に架かる歴史と技術の融合

ロンドンのランドマーク、ハンガーフォード橋は、テムズ川に架かる印象的な橋です。ウェストミンスター橋とウォータールー橋の間に位置し、鉄道と歩行者双方のための通路を提供しています。その歴史は1845年に遡り、イザムバード・キングダム・ブルネル設計による吊り橋式歩道橋として誕生しました。橋の名前は、テムズ川の北側にあったハンガーフォード・マーケットに由来しています。

しかし、サウス・イースタン鉄道の延伸に伴い、初代の橋は1859年に鉄道会社に買収され、ジョン・ホークショー設計による錬鉄製の格子桁橋へと架け替えられました。この新たな橋は1864年に開通、初代橋の鎖はクリフトン吊り橋に再利用されるなど、資源の有効活用も見られました。煉瓦造りのバットレスは現在も一部残っており、歴史の重みを感じさせます。

鉄道橋の両側には歩道橋が設置されていましたが、老朽化や安全性への懸念から、1990年代半ば、新しい歩道橋の建設が決定されました。1999年には殺人事件が発生するなど、危険性の高さが社会問題化していました。また、ホークショー設計の鉄道橋の錬鉄の脆さや、マーショネス号転覆沈没事故以降の水位部分の保護の必要性も、架け替えを加速させる要因となりました。

新しい歩道橋の設計には、リフシャツ・デイヴィッドソン・サンディランズとWSPグループが参加、詳細設計はギフォード（現ランボルUK）が担当しました。鉄道運行を止めずに工事を進める必要があり、ロンドン地下鉄の線路や、第二次世界大戦時の不発弾の存在など、数々の困難を克服する必要がありました。

2002年に完成した2本の新しい歩道橋は「ゴールデン・ジュビリー橋」と名付けられ、エリザベス2世の即位50周年を記念しました。4m幅のデッキは、「押出し架設工法」という革新的な工法を用いて建設されました。300トンものスチール製トラスを川に向かって押し出すこの方法は、当時の技術力の高さを示すものです。

ゴールデン・ジュビリー橋は複雑かつ精巧な構造を誇ります。デッキは傾斜したパイロンによって支えられ、「デッキ・ステイズ」と呼ばれる細いスチール軸と「バック・ステイズ」によって固定されています。4km以上のケーブルを使用し、全体の構造はパイロンと数々の軸・支柱にかかる張力を利用した、非常に安定した構造となっています。

この新しい橋は、その建築的・技術的功績から高い評価を受け、ロイヤル・ファイン・アート・コミッション主催の「ビルディング・オブ・ザ・イヤー」専門家部門賞（2003年）、インスティテューション・オブ・ストラクチュラル・エンジニアズ賞へのノミネート（2004年）、ライティング・デザイン賞（シヴィック・トラスト賞、2004年）など、数々の賞を受賞しています。

ハンガーフォード橋は、単なる交通手段を超え、ロンドンの歴史と技術の粋を集めた象徴的な存在であり続けています。その歴史と技術的革新は、現代のエンジニアリング技術の進歩を示す重要な事例となっています。現在も、ロンドンの発展と共に、人々の生活を支え続けています。将来的には、ガーデン橋など新たな歩道橋の建設も計画されており、テムズ川沿いの交通網はますます充実していくでしょう。

もう一度検索