ハーディ・ガーディ

ハーディ・ガーディ：歴史と構造、多様な変種

ハーディ・ガーディ（hurdy gurdy）は、弦[[楽器]]の一種で、その独特な発音機構から「機械仕掛けのヴァイオリン」とも称されます。弦の下を通るロジンを塗った木製のホイール（回転板）が弦を擦ることで音を出す仕組みで、このホイールはクランク（ハンドル）で操作されます。

発音のメカニズム

ハーディ・ガーディの胴はギターやリュートに似た形状をしています。旋律は鍵盤で演奏されますが、この鍵盤は「タンジェント」と呼ばれる小さな楔形を押し下げることで弦に圧力をかけ、音程を調整します。

ほとんどのハーディ・ガーディには、旋律弦に加えて複数の「ドローン弦」があり、旋律と同時に持続音が響きます。このドローン音はバグパイプと共通する特徴であり、フランスの民族音楽や現代ハンガリー音楽では、バグパイプの代用としても使用されます。

歴史

ハーディ・ガーディの起源は11世紀以前の西ヨーロッパに遡ります。初期の形態の一つである「オルガニストルム」は、ギター型のボディに鍵盤が設置された大型の楽器でした。演奏には2人を要し、一人がクランクを回し、もう一人が鍵を操作しました。オルガニストルムは教会音楽の伴奏楽器として使用されました。

その後、オルガニストルムは小型化し、一人で演奏できる「独奏オルガニストルム」が登場しました。さらに小型の箱型ハーディ・ガーディ「シンフォニア」が開発され、上から引き上げるタイプに代わり、下から押す新型鍵盤の採用により、演奏が容易になりました。

ルネサンス期にはハーディ・ガーディはバグパイプと並ぶ人気を博し、短いネック、角張ったボディ、湾曲したテールという特徴的な形を獲得しました。また、この時期には、音に独特のうなりを加える「うなり駒」も登場しました。

17世紀末になると、音楽の趣味の変化によりハーディ・ガーディは低迷しましたが、18世紀にはロココ趣味で田舎風が流行したことから、再び宮廷で人気を博しました。この時期に、現在最も一般的な形である6弦の「ヴィエル・ア・ル」が確立しました。

東ヨーロッパにも伝播し、ハンガリー、ポーランド、ベラルーシ、ウクライナなどで多様な発展を遂げました。ウクライナでは「リラ」と呼ばれ、盲目の辻音楽師「リルニク」によって演奏されていましたが、ソビエト時代に弾圧されました。

20世紀初頭にはほとんど姿を消しましたが、近年、再興の動きが見られ、様々なジャンルの音楽で用いられるようになっています。

楽器の名称

「ハーディ・ガーディ」という名称は擬声語に由来するとされ、ホイールがゆがむ音やうなり駒の音を表現したと考えられています。また、イギリスでは18世紀に軽蔑的な意味で使われたとする説もあります。

フランス語では「ヴィエル・ア・ル」、ハンガリー語では「テケルーラント」など、様々な言語で異なる名称があります。また、「ホイール・フィドル」という名称も存在します。

構造

現代のハーディ・ガーディには標準的な設計はありませんが、6弦のフランス式「ヴィエル・ア・ル」が最も一般的です。ボディの形状はギター型とリュート型があり、演奏家の間では箱型の「シンフォニア」も用いられます。

ハーディ・ガーディの専門用語にはフランス語が多く使われ、特に以下の用語が重要です。

trompette（トロンペット）: 最高音のドローン弦（うなり駒付き）
mouche（ムッシュ）: トロンペットの4度または5度下のドローン弦
petit bourdon（プティ・ブルドン）: トロンペットの1オクターブ下のドローン弦
gros bourdon（グロ・ブルドン）: ムッシュの1オクターブ下のドローン弦
chanterelle(s)（シャントレル）: 旋律弦
chien（シヤン）: うなり駒
tirant（ティラン）: うなり駒の感度を調整するペグ

弦は歴史的にガットで作られていましたが、現代では金属弦も用いられます。また、弦の音程や音質を調整するためにコットンで包む「コットニング」や、駒と弦の間に紙切れを挟む「シミング」も重要です。

うなり駒

ハーディ・ガーディの特徴的な要素の一つが「うなり駒」です。ドローン弦の下にある非対称形の駒で、ホイールの回転速度が上がると振動し、独特のうなり音を発生させます。このうなり駒は、舞曲などでアーティキュレーションや効果音として利用されます。

うなり駒の感度は、「ティラン」と呼ばれるペグで調整できます。また、ハンガリー式の楽器では、手首の動きでコントロールされます。

地域毎の変種

ハーディ・ガーディは、ホイールの大きさやうなり駒の有無によって様々な種類に分類されます。

小型ホイール: 中欧や東欧に見られ、幅広のキーボックスを持ちます。
弦調整式うなり駒: ドイツの洋梨型ドレーライアーなどに見られます。
くさび調整式うなり駒: ハンガリーのテケルーラントなどが該当します。
うなり駒なし: ポーランドのリラ・コルボワやロシアのリラなどがあります。
大型ホイール: 西ヨーロッパで見られ、幅の狭いキーボックスを持ちます。
弦調整式うなり駒: フランスのヴィエル・ア・ルなどがあります。

無形文化遺産

2024年、ウクライナの「コブザとホイール・リラの伝統の保護プログラム」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。

関連情報

ハーディ・ガーディは、音楽作品や映画、ドラマなどにも登場しています。

フランツ・シューベルト作曲の歌曲集『冬の旅』に登場するライアーは、ハーディ・ガーディを指していると考えられています。
日本のアーティスト灰野敬二は、ハーディ・ガーディを用いたソロアルバムを発表しています。
アメリカのテレビドラマ『Black Sails/ブラック・セイルズ』のテーマ曲にも使用されています。

まとめ

ハーディ・ガーディは、その独特な構造と音色、そして長い歴史を持つ魅力的な楽器です。その多様な変種や、近年における再興の動きは、ハーディ・ガーディの魅力をさらに広げています。今後もさまざまな音楽シーンでその音色を聴くことができるでしょう。

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