冬の旅

シューベルト 連作歌曲集『冬の旅』

『冬の旅』（Winterreise）作品89、D 911は、フランツ・シューベルトが1827年に作曲した、ヴィルヘルム・ミュラーの詩による連作歌曲集です。

作品背景

『冬の旅』は全24曲から構成され、1823年作曲の『美しき水車小屋の娘』と同じく、ヴィルヘルム・ミュラーの詩集を基にしています。『水車小屋』が若者の恋と挫折を描くのに対し、『冬の旅』は失恋した若者が社会からの疎外感を抱えながら、冬の荒涼とした景色の中をさまよう姿を描いています。

シューベルト自身も作曲当時、体調を崩し、死を意識するようになっていました。ベートーヴェンの死も大きな影響を与え、『冬の旅』の暗く絶望的な世界観に繋がったと考えられています。

作品の特徴

全24曲のうち16曲が短調で書かれており、全体的に暗く絶望的な雰囲気に包まれています。長調の部分が現れても、それは幻想や皮肉に過ぎず、甘い感傷に浸ることはありません。若者は死を求めながらも旅を続け、その姿は現代を生きる人々の心にも強く訴えかけます。

作曲順序は、ミュラーの詩の発表順序と異なっています。ミュラーが1823年に発表した12編の詩に、1824年に12編を書き足し、順序を入れ替えて全24編としたため、シューベルトは前半12曲を作曲後、後半12曲をミュラーの最終的な構成に基づいて作曲しました。

各曲について

第1部

1. おやすみ：失恋した若者が、恋人の家を後にする。
2. 風見の旗：恋人の不実を悟る。
3. 凍った涙：涙が頬を伝う。
4. 氷結：恋人への思いを爆発させる。
5. 菩提樹：甘い思い出の場所を通り過ぎる。
6. 溢れる涙：涙が小川に流れていくことを願う。
7. 川の上で：凍った小川に恋人の名前を刻む。
8. 回想：町に戻りたい衝動に駆られる。
9. 鬼火：鬼火に誘われ、さまよう。
10. 休息：小屋で休息するも、安らぎは得られない。
11. 春の夢：春の美しい夢を見る。
12. 孤独：明るい世界からのけ者にされていることを自覚する。

第2部

13. 郵便馬車：恋人からの手紙を期待する。
14. 霜おく頭：老いを喜び、死を待ち望む。
15. 烏：烏がついてくる。
16. 最後の希望：枯葉に希望を託す。
17. 村にて：村人との隔絶を感じる。
18. 嵐の朝：嵐に荒んだ心を重ねる。
19. まぼろし：まぼろしに安らぎを求める。
20. 道しるべ：死へと続く道を選ぶ。
21. 宿屋：墓場に拒否される。
22. 勇気：自然の力に立ち向かおうとする。
23. 幻の太陽：消えゆく希望を象徴する太陽を見る。
24. 辻音楽師：孤独な辻音楽師に共感し、共に旅をすることを願う。

演奏時間

約1時間15分

演奏について

全体を通して、演奏家は聴衆に安易な共感を求めることなく、作品が持つ凍り付くような印象を表現することが重要です。

録音

ディートリヒ・フィッシャー＝ディースカウ、ハンス・ホッターなどの名演があります。スティングが英訳で歌っているバージョンもあります。

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