ハ54 (エンジン)

ハ54エンジンの概要と開発史

ハ54は、1940年代に中島飛行機によって開発された航空機用の空冷星型エンジンであり、社内ではBZと呼ばれていました。このエンジンは、アメリカ本土を攻撃するために設計された超大型戦略爆撃機「富嶽」の搭載エンジンとして、1943年中頃から開発が開始されました。当初の計画では、既存のハ46エンジンを2台、タンデム接続する形式が考えられていましたが、その後、設計はハ44に見直されました。

エンジンの設計には、星型セレーション方式で接続された2本のクランク軸が採用されており、冷却には強制冷却ファンが使用されることが計画されていました。ファンが吸い込んだ空気は導風板によって分割され、気筒の前後に冷却空気が供給される方式が考えられました。また、燃料分配に関する懸念から、ドーナツ状の「集合吸入管」システムを導入し、過給機から送られる燃料を均等に各気筒へ分配する工夫が行われました。

ハ54エンジンの燃料供給には、1944年に中島が開発した低圧燃料噴射装置が使用されます。これにより、ポンプで圧送された燃料がノズルから連続的に噴射され、エンジンの性能を最大限に引き出すことが目指されました。

富嶽の初飛行は1945年5月に予定されており、そのため開発は急ピッチで進められました。部品の設計が完了した段階で、実際の製作に入ることが計画されており、1944年10月までに試作機の組立を終え、1945年2月までに耐久試験を完了させるという厳しいスケジュールが組まれました。しかし、1944年7月にサイパンが陥落したことで、搭載機である富嶽の開発とともにハ54の開発も中止される運命を辿りました。

主要諸元

• - 形式: 空冷星型4列36気筒
• - 内径×行程: 146 mm × 160 mm
• - 排気量: 96.4 L
• - 圧縮比: 7.2
• - 全長: 3,581 mm
• - 全幅: 1,550 mm
• - 乾燥重量: 2,450 kg
• - 燃料供給装置: 中島式低圧燃料噴射装置
• - 過給機: 遠心機械過給機1段3速
• - 翼車直径: 500 mm
• - 増速比: 1.00、4.77、5.88
• - 減速機: 遊星歯車式減速機
• - 減速比: 0.414
• - 離昇馬力: 5,000 HP / 2,800 rpm（ブースト圧 +600 mmHg)
• - 公称馬力（条件付き）:

- 二速全開: 4,620 HP / 2,800 rpm (ブースト圧 +400 mmHg、高度 2,200 m)
- 三速全開: 4,060 HP / 2,800 rpm (ブースト圧 +400 mmHg、高度 6,300 m)

ハ54は完成には至りませんでしたが、当時の技術を結集した意欲的なエンジンとして、その存在は航空機開発史に残るものです。

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