バイオントダム

バイオントダム災害：人災と自然の脅威が引き起こした悲劇

イタリア北東部、ピアーヴェ川支流のバイオント川に建設されたバイオントダムは、1960年の完成当時、262mの堤高を誇り世界一の高さでした。しかし、そのわずか3年後、未曾有の大惨事が発生します。1963年10月9日、夜遅く、ダムの左岸斜面で大規模な地すべりが発生。大量の土砂がダム湖に流れ込み、巨大な津波が発生しました。この津波は、湖周辺の集落を飲み込み、下流にも甚大な被害をもたらしました。犠牲者数は2000名を超え、多くの家屋やインフラが破壊されました。

災害の背景：危険を無視した開発

バイオントダム建設の計画は、1920年代にまで遡ります。しかし、この地帯の地質は脆弱であることが指摘されており、建設の安全性については懸念の声が上がっていました。それでも、第二次世界大戦後の1943年には建設が許可され、1957年に着工。革新的なダム設計で知られたカルロ・セメンツァを設計者として、1960年に完成に至ります。

建設中から、貯水開始後に地すべりや地震が頻発していました。これらは、危険信号として捉えられながらも、その深刻さは軽視され、十分な対策は講じられませんでした。当時、ダムの安全性に関する科学的な知見や、リスク評価に関する体系的な枠組みは十分に確立されていなかった面もあります。また、政治的・経済的圧力が、安全性の懸念を上回った可能性も指摘されています。

災害のメカニズム：想像を絶する規模の地すべり

1963年10月9日、トック山から約2kmにわたって地すべりが発生しました。土砂の量は推定2億4000万立方メートルにも及び、時速100kmという驚異的な速度でダム湖に突入。この土砂によってダム湖の水が押し上げられ、高さ250mに達する津波が発生。ダムの下流にあるロンガローネ村は、瞬く間に水に飲み込まれ壊滅的な被害を受けました。ロンガローネ村だけでも1450人以上の犠牲者が出ました。ダム自体は大規模な損傷を免れましたが、この災害はダム建設における地質調査の重要性を改めて浮き彫りにしました。

災害後の影響と教訓

バイオントダム災害は、世界中に衝撃を与えました。災害の責任を問う裁判が行われ、住民を避難させなかった関係者が有罪判決を受けました。また、この災害を契機に、ダム建設における地質調査の重要性が世界的に認識されるようになり、より厳格な安全基準が求められるようになりました。ダム建設においては、単にダム自体の強度だけでなく、周辺地質の精密な調査と、地すべりなどのリスク評価が不可欠であることが明らかになったのです。

日本のダムと地質

日本でも、地質が脆弱な地域に多くのダムが建設されています。そのため、ダム建設にあたっては、ダム地点の地質条件に関する調査、対策が慎重に行われてきました。しかし、湛水域の地質については、ダム計画決定後に調査されることが多く、課題が残っています。過去にも、試験湛水中に地すべりが発生した事例があり、ダムの運用方法や安全管理の重要性が改めて問われています。

バイオントダム災害の記憶

バイオントダム災害は、技術の進歩にもかかわらず、自然の脅威と人為的ミスが重なって起こる甚大な災害の危険性を示す、痛ましい事例です。この災害から得られた教訓は、現代のインフラ整備において、安全性の確保とリスク管理の重要性を再確認させるものです。バイオントダム災害の記憶は、未来への警鐘として、決して忘れてはならないでしょう。

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