バイカル・ブースター

ロシアの革新的再使用ロケット計画：バイカル・ブースター

ロシアがアンガラロケットシリーズ向けに計画したバイカル・ブースターは、再使用可能な補助ロケットとして構想されました。この野心的なプロジェクトは、旧ソ連のスペースシャトル「ブラン」の開発で培われた技術を応用し、ロケットの打ち上げコスト削減と安全性向上を目指すものでした。クルニチェフ宇宙センターからの依頼に基づき、モルニア研究産業会社（NPOモルニア）がその設計を担いました。

独自の帰還システムと技術

バイカル・ブースター最大の特徴は、その独自の飛行帰還システムにあります。ロケット第一段として機能を終えた後、機体は高度約75キロメートル、速度マッハ5.6でアンガラロケットの第二段から分離します。分離後、通常は機体側面に格納されている主翼を90度回転させて展開し、機体を反転させて滑空を開始します。この滑空フェーズで速度を大幅に減速し、亜音速に達すると、機体前部に装備されたRD-33ジェットエンジンを始動させます。このジェットエンジンによる動力飛行で、ブースターは射場付近の滑走路まで飛行し、航空機のように水平に着陸します。推進システムとしては、ロケット飛行用にRD-191エンジン（推力約200トン）を搭載する計画でした。

計画がもたらすメリットと想定される運用

バイカル計画は、いくつかの重要な利点をもたらすことが期待されていました。最も大きなメリットは、再使用による経済性です。使用済みの第一段を回収・再利用することで、打ち上げ費用を重量あたり25%から50%削減できる見込みでした。また、ロケットの落下区域が不要となるため、地上の安全性が向上し、特に内陸にあるプレセツク宇宙基地からの打ち上げにおいて重要となるスペースデブリ落下リスクを大幅に低減できます。さらに、落下区域の制約が軽減されることで、多様な軌道への打ち上げが可能となり、運用上の柔軟性が高まります。バイカル・ブースターは、アンガラロケットのペイロードクラスに応じて異なる数を使用する計画でした（軽量級：1基、中量級：2基、重量級：4基）。同じブースターを複数のロケットタイプに使用することも想定されていました。

開発の歩みと現状

バイカル計画は、その革新的な設計から国際的な注目を集めました。2001年7月のパリ航空ショーでは、実物大のエンジニアリングモックアップが公開され、その存在を広く知らしめました。このモックアップは、中央航空流体力学研究所（TsAGI）の風洞で様々な速度域での試験が行われました。しかし、実際の飛行試験への道のりは険しく、2010年頃のクルニチェフ宇宙センターのコメントでは、分離試験の実施には時間がかかり、実機はモックアップからデザインが大きく変更される可能性が示唆されていました。その後、計画に関する続報は途絶え、主ロケットであるアンガラ自体の開発遅延も相まって、バイカル計画は事実上凍結されたものと推測されています。しかし、バイカルで培われた再使用技術への関心は続いており、2018年6月に発表されたロシアの新たな小型再使用ロケット構想において、その技術が活用される方針が示されています。

結論

バイカル・ブースター計画は、再使用型ロケット技術におけるロシアの先進的な試みでした。計画自体は完成に至らなかった可能性が高いですが、その技術的な挑戦は、将来の宇宙輸送システム開発に向けた貴重な経験と資産となっています。

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