RD-191
ロシアで開発されたRD-191は、強力な推進力を生み出す液体燃料ロケットエンジンです。これは、かつてエネルギアロケットに搭載されたRD-170エンジンを基に開発されましたが、重要な違いがあります。RD-170が4つの独立した燃焼室を持つのに対し、RD-191は独立したターボポンプを備えた単一の燃焼室で構成されています。
このエンジンの推進剤には、ロケット燃料として一般的なケロシン（RP-1）と、酸化剤としての液体酸素が使われます。燃焼方式には高圧二段燃焼サイクルが採用されており、これにより極めて高い効率を実現しています。高圧二段燃焼サイクルでは、まず少量の推進剤が予燃焼器で燃焼し、その高温高圧ガスでタービンを回して推進剤ポンプを駆動します。その後、このガスは主燃焼室で残りの推進剤と合流して完全に燃焼し、推力を発生させます。
点火方法は特徴的で、始動用の液体酸素と接触すると自然に燃え出す特殊な燃料を燃焼室に供給することで、化学反応により着火します。これにより、複雑な点火システムが不要となります。また、エンジンの出力は柔軟に制御可能です。通常の運転推力から最大30%まで下げることができ、緊急時には短時間限定で最大5%まで出力を向上させる能力も備えています。
エンジンの推力方向は、ジンバル支持架によって調整されます。これにより、エンジンノズルを機体のヨー軸およびピッチ軸に対して最大8度まで傾けることができ、飛行中の姿勢制御や軌道修正を可能にします。エンジンの燃焼状態は多数のセンサーによって常に監視されており、計測データはテレメトリーを通じて送信されます。これらの情報は、エンジンの異常を検知し、緊急保護装置を作動させるために不可欠です。
RD-191には、推力発生以外の重要な機能も組み込まれています。一つは、ヘリウムガスを加熱して高温にし、これを推進剤タンクに送ることでタンク内圧力を適正に保つ機能です。これにより、推進剤が安定してポンプに供給されます。もう一つは、油圧を発生させ、油圧アクチュエーターを駆動する機能です。この油圧システムは、燃焼室の角度調整や、必要に応じて空力舵の操作に用いられ、機体制御に貢献します。
RD-191の主要な仕様は以下の通りです：
開発は順調に進み、製造元のNPOエネゴマシュは2008年9月5日、所定の燃焼時間をクリアして生産準備が整ったことを報告しました。このエンジンが最初に搭載される予定だったのは、ロシアが開発を進めていた新型ロケット、アンガラです。
RD-191の設計を基に、推力を170重量トンに抑えたRD-151という派生型も生まれました。RD-151は2009年7月30日に燃焼試験を成功させ、その最初の飛行試験は2009年8月25日に行われました。これは、韓国の宇宙開発における重要な節目となったNaro-1ロケットの第一段エンジンとしての打ち上げでした。
RD-191からはいくつかの重要な派生型が開発されています。RD-181は、RD-191を輸出向けに仕様変更したモデルです。2014年12月、アメリカのオービタル・サイエンシズ社（現在のノースロップ・グラマン）は、国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送を担う同社のアンタレスロケットにRD-181を採用する可能性があると発表しました。アンタレスの第一段には2基のRD-181が搭載される計画で、これにより、それまで使用されていたAJ-26エンジンに比べて大幅な性能向上が見込まれました。特に、2基合計で約440キロニュートン（約10万重量ポンド）の推力が増加することで、NASAとの契約で要求されていた20トンの貨物を、AJ-26では5回以上の打ち上げが必要だったところ、RD-181では4回の打ち上げで輸送できると予測されました。RD-181を搭載したアンタレスの初打ち上げは2016年10月に行われ、その後もISS補給ミッションで使用されました。しかし、2022年に発生したロシアによるウクライナ侵攻を受けた米ロ関係の悪化により、RD-181の使用は打ち切られることとなりました。
もう一つの派生型であるRD-193は、2013年4月に燃焼試験完了が報告されたエンジンです。RD-191を基に、全長を短くするなど小型・軽量化が図られました。このエンジンは、ロシアの軽量級ロケットであるソユーズ2.1vの第一段エンジンとして、従来使用されていたNK-33エンジンの代替を目指していました。しかし、ソユーズ2.1vロケットは2025年に退役したため、RD-193の将来的な運用計画は影響を受けています。
RD-191とその派生型は、ロシアのアンガラ、韓国のNaro-1、そしてアメリカのアンタレスといった、様々な国の宇宙計画において重要な役割を果たすことが期待されていました。その先進技術と高い性能は注目されましたが、国際情勢の変動は、これらのエンジンの運用にも複雑な影響をもたらす結果となりました。
このエンジンの推進剤には、ロケット燃料として一般的なケロシン（RP-1）と、酸化剤としての液体酸素が使われます。燃焼方式には高圧二段燃焼サイクルが採用されており、これにより極めて高い効率を実現しています。高圧二段燃焼サイクルでは、まず少量の推進剤が予燃焼器で燃焼し、その高温高圧ガスでタービンを回して推進剤ポンプを駆動します。その後、このガスは主燃焼室で残りの推進剤と合流して完全に燃焼し、推力を発生させます。
点火方法は特徴的で、始動用の液体酸素と接触すると自然に燃え出す特殊な燃料を燃焼室に供給することで、化学反応により着火します。これにより、複雑な点火システムが不要となります。また、エンジンの出力は柔軟に制御可能です。通常の運転推力から最大30%まで下げることができ、緊急時には短時間限定で最大5%まで出力を向上させる能力も備えています。
エンジンの推力方向は、ジンバル支持架によって調整されます。これにより、エンジンノズルを機体のヨー軸およびピッチ軸に対して最大8度まで傾けることができ、飛行中の姿勢制御や軌道修正を可能にします。エンジンの燃焼状態は多数のセンサーによって常に監視されており、計測データはテレメトリーを通じて送信されます。これらの情報は、エンジンの異常を検知し、緊急保護装置を作動させるために不可欠です。
RD-191には、推力発生以外の重要な機能も組み込まれています。一つは、ヘリウムガスを加熱して高温にし、これを推進剤タンクに送ることでタンク内圧力を適正に保つ機能です。これにより、推進剤が安定してポンプに供給されます。もう一つは、油圧を発生させ、油圧アクチュエーターを駆動する機能です。この油圧システムは、燃焼室の角度調整や、必要に応じて空力舵の操作に用いられ、機体制御に貢献します。
RD-191の主要な仕様は以下の通りです：
- - 直径: 1,450 mm
- - 全高: 4,000 mm
- - 最大推力: 213重量トン (約2090 kN)
- - 真空中比推力: 337 秒
開発は順調に進み、製造元のNPOエネゴマシュは2008年9月5日、所定の燃焼時間をクリアして生産準備が整ったことを報告しました。このエンジンが最初に搭載される予定だったのは、ロシアが開発を進めていた新型ロケット、アンガラです。
RD-191の設計を基に、推力を170重量トンに抑えたRD-151という派生型も生まれました。RD-151は2009年7月30日に燃焼試験を成功させ、その最初の飛行試験は2009年8月25日に行われました。これは、韓国の宇宙開発における重要な節目となったNaro-1ロケットの第一段エンジンとしての打ち上げでした。
RD-191からはいくつかの重要な派生型が開発されています。RD-181は、RD-191を輸出向けに仕様変更したモデルです。2014年12月、アメリカのオービタル・サイエンシズ社（現在のノースロップ・グラマン）は、国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送を担う同社のアンタレスロケットにRD-181を採用する可能性があると発表しました。アンタレスの第一段には2基のRD-181が搭載される計画で、これにより、それまで使用されていたAJ-26エンジンに比べて大幅な性能向上が見込まれました。特に、2基合計で約440キロニュートン（約10万重量ポンド）の推力が増加することで、NASAとの契約で要求されていた20トンの貨物を、AJ-26では5回以上の打ち上げが必要だったところ、RD-181では4回の打ち上げで輸送できると予測されました。RD-181を搭載したアンタレスの初打ち上げは2016年10月に行われ、その後もISS補給ミッションで使用されました。しかし、2022年に発生したロシアによるウクライナ侵攻を受けた米ロ関係の悪化により、RD-181の使用は打ち切られることとなりました。
もう一つの派生型であるRD-193は、2013年4月に燃焼試験完了が報告されたエンジンです。RD-191を基に、全長を短くするなど小型・軽量化が図られました。このエンジンは、ロシアの軽量級ロケットであるソユーズ2.1vの第一段エンジンとして、従来使用されていたNK-33エンジンの代替を目指していました。しかし、ソユーズ2.1vロケットは2025年に退役したため、RD-193の将来的な運用計画は影響を受けています。
RD-191とその派生型は、ロシアのアンガラ、韓国のNaro-1、そしてアメリカのアンタレスといった、様々な国の宇宙計画において重要な役割を果たすことが期待されていました。その先進技術と高い性能は注目されましたが、国際情勢の変動は、これらのエンジンの運用にも複雑な影響をもたらす結果となりました。
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