バイモ属

バイモ属（Fritillaria）とは

バイモ属は、ユリ科に分類される多年草の属で、学名を Fritillaria といいます。和名では「貝母（バイモ）」と表記され、中国では「商阜花属」と呼ばれています。この属は、その多様な形態と分布域の広さから、植物学的に非常に興味深いグループです。

特徴

バイモ属の植物は、地下に鱗茎を持つ多年草です。この鱗茎は、種によって多数の鱗片からなるものと、2個の鱗片からなるものがあります。葉は茎に互生、対生、または輪生し、まれに上部の葉が巻きひげ状になるものもあります。

花は特徴的な鐘状で、茎の先に1個から数個が下向きに咲きます。花被片は6個で、長楕円形から卵形をしており、内側の基部には腺体があります。雄蕊は6個で、花被片よりも短く、子房は上位で3室に分かれています。各室には多数の胚珠があり、花柱は3つに裂けるものと裂けないものがあります。果実は蒴果で、胞背裂開し、種子には狭い翼がついています。

分布

バイモ属は、主に北半球の温帯地域に分布しており、特に中央アジアと地中海沿岸地域に多く見られます。現在、約130種が知られており、そのうち数種が日本にも分布しています。

日本に分布する主な種

日本には、以下のようなバイモ属の種が分布しています。

ホソバナコバイモ (Fritillaria amabilis)：花は鐘状筒形で、花被片には縦の条線があり、網目状の斑紋はありません。葯はクリーム色をしています。環境省の準絶滅危惧種(NT)に指定されており、本州の中国地方や九州に分布しています。
イズモコバイモ (Fritillaria ayakoana)：花は椀状の鐘形で、花被片の先端が外側に張り出しています。花柱はほとんど裂けません。環境省の絶滅危惧II類(VU)に指定されており、本州の中国地方の日本海側に分布しています。
クロユリ (Fritillaria camtschatcensis)：広義には、日本の中部地方以北、北海道、千島、樺太、中国東北部、ウスリー、カムチャツカ、北アメリカ北部に分布しています。
エゾクロユリ (Fritillaria camtschatcensis var. camtschatcensis)：北海道以北の低地に分布し、染色体数が3倍体で、草丈が高く、花が3〜7個つきます。
ミヤマクロユリ (Fritillaria camtschatcensis var. keisukei)：本州や北海道の高山に分布し、染色体数が2倍体で、草丈が低いのが特徴です。
ミノコバイモ（コバイモ） (Fritillaria japonica)：花は広鐘形で、花被片の中部下寄りが外側に角ばって張り出します。内花被片の縁は平坦で、葯はクリーム色です。環境省の絶滅危惧II類(VU)に指定されており、本州の近畿地方を中心に分布しています。
カイコバイモ (Fritillaria kaiensis)：花は椀状鐘形で、花被片の先端が外側に張り出します。花柱は3中裂します。環境省の絶滅危惧IB類(EN)に指定され、国内希少野生動植物種にも指定されています。本州の関東地方と富士山周辺に分布します。
ヒゴコバイモ (Fritillaria kiusiana)：花被片には縦の条線のみがあり、網目状の斑点模様はありません。葯は青紫色から青色をしています。2016年に新種として記載され、九州中部に分布しています。
コシノコバイモ (Fritillaria koidzumiana)：花は広鐘形で、花被片の中部下寄りが外側に角ばって張り出します。内花被片の縁には顕著な突起があります。葯はクリーム色で、本州の日本海側と岐阜県、愛知県、静岡県に分布しています。
アワコバイモ (Fritillaria muraiana)：花は広鐘形で、花被片の中部下寄りが外側に角ばって張り出します。葯は赤紫色をしています。環境省の絶滅危惧II類(VU)に指定されており、四国に分布しています。
トサコバイモ (Fritillaria shikokiana)：花は鐘状筒形で、花被片に網目状の斑紋があります。葯は紫色をしています。環境省の絶滅危惧II類(VU)に指定されており、四国に分布しています。
トクシマコバイモ (Fritillaria × tokushimensis)：アワコバイモとトサコバイモの交雑種で、四国に分布しています。
イワミコバイモ (Fritillaria × makotoi)：ホソバナコバイモとイズモコバイモの交雑種で、2018年に新雑種として記載されました。島根県と広島県に分布します。

その他の主な種

上記以外にも、以下のような種が知られています。

ヨウラクユリ (Fritillaria imperialis)
イチリンバイモ (Fritillaria maximowiczii)
コバンユリ (Fritillaria meleagris)
バイモ（アミガサユリ） (Fritillaria thunbergii)：中国原産の薬用植物です。
チョウセンバイモ (Fritillaria ussuriensis)

名前の由来

和名の「貝母」は、漢名の「貝母」に由来します。属名の Fritillaria は、ラテン語で「サイコロを入れる筒」を意味し、これは筒状の花被の形をたとえたものです。

参考文献

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編 『日本の野生植物 草本I単子葉類』、1982年、平凡社
豊国秀夫編 『山溪カラー名鑑 日本の高山植物』、1988年、山と溪谷社
清水建美、木原浩 『高山に咲く花 山溪ハンディ図鑑8』、2002年、山と溪谷社
牧野富太郎原著、大橋広好・邑田仁・岩槻邦男編 『新牧野日本植物圖鑑』、2008年、北隆館
門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花（増補改訂新版）』、2013年
矢原徹一他監修 『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ（増補改訂新版）』、2015年、山と溪谷社
大橋広好・門田裕一・木原浩他編 『改訂新版 日本の野生植物 1』、2015年、平凡社
鳴橋直弘編著 『ユリ科コバイモ』、2020年
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）
Fritillaria, Flora of China

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