アワコバイモ

アワコバイモ（阿波小貝母）

特徴

アワコバイモ（学名：Fritillaria muraiana）は、ユリ科バイモ属に分類される多年草です。草丈は10～30cm程度と小型で、細く直立する茎が特徴です。地下には直径6～13mmほどの白色の球形の鱗茎があり、ここから多数の白色の根を伸ばします。

葉は細長い披針形から線形で、長さ35～85mm、幅5～13mm程度です。下部では2枚が対生し、上部では3枚が輪生します。葉の色は通常緑色ですが、暗赤紫色を帯びることもあり、開花後には緑色に戻ります。

開花期は3～4月で、茎の先端に1つの花を下向きに咲かせます。花は広鐘形で、長さ12～20mm、直径13～15mm程度です。花被片は6枚で、線状長楕円形から長楕円形をしており、基部付近に「肩」と呼ばれる張り出しがあるのが特徴です。花被片の外面には暗紫色の斑点模様があり、内側には蜜腺があります。雄しべは6本、葯は淡紫色から赤紫色です。雌しべの花柱は白色または淡紫色で、柱頭は深く3つに分かれています。果実は蒴果で、長さ10～28mm、径8～12mmで、種子は約2mmです。地上部は6月頃には枯れます。染色体数は2n=24です。

分布と生育環境

アワコバイモは日本固有種で、四国（香川県、徳島県、愛媛県、高知県）の山地の落葉樹林の林床や林縁に生育しています。比較的まれな植物とされています。

名前の由来

和名のアワコバイモは、「阿波（徳島県）産のコバイモ」という意味で、徳島県高越山で採集された標本に基づいて命名されました。種小名の muraiana は、この植物の発見者であり、タイプ標本の採集者である村井貞固氏に献名されたものです。村井氏は当時、徳島県立農業学校の教諭でした。

分類

アワコバイモは、本州の東海地方西部から中国地方東部に分布するミノコバイモ Fritillaria japonica とよく似ています。花の形や色も似ていますが、アワコバイモの葯が淡紫色から赤紫色であるのに対し、ミノコバイモの葯は黄白色である点が異なります。

種の保全状況評価

アワコバイモは、環境省レッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されています。かつては絶滅危惧IB類(EN)に指定されていましたが、現在はランクが下がっています。各県ごとのレッドデータでは、徳島県、香川県、愛媛県で絶滅危惧II類(VU)、高知県では絶滅危惧IB類(EN)に指定されています。

トクシマコバイモ

アワコバイモとトサコバイモ Fritillaria shikokiana との自然交雑種であるトクシマコバイモ Fritillaria × tokushimensis が存在します。この交雑種は花の形が両親種の中間型で、筒形と鐘形の中間の形をしていますが、変異が大きく、アワコバイモに似た形になったり、トサコバイモに似た形になることもあります。開花期には葉が暗赤紫色になることがあります。雑種名の tokushimensis は、「徳島産の」という意味で、発見地が徳島県であったことに由来します。トクシマコバイモは、徳島県では絶滅危惧IB類(EN)に指定されています。

参考文献

加藤雅啓・海老原淳編著『日本の固有植物』、2011年、東海大学出版会
門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花（増補改訂新版）』、2013年、山と溪谷社
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 1』、2015年、平凡社
矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ（増補改訂新版）』、2015年、山と溪谷社
鳴橋直弘編著『ユリ科コバイモ』、2020年
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名－学名インデックス」（YList）
日本のレッドデータ検索システム
大井次三郎「東亜植物資料15 Symbolae ad Floram AsiaeOrientals 15」『植物分類及植物地理 (Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第6巻第3号、植物分類地理学会、1937年
* アワコバイモ、愛媛県レッドデータブック2014

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