バクトリア・マルギアナ複合

バクトリア・マルギアナ考古学複合（BMAC）：謎多き青銅器時代の文明

バクトリア・マルギアナ考古学複合（Bactria-Margiana Archaeological Complex、略称BMAC）は、紀元前2000年前後、現在のトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、アフガニスタン北部を範囲とするアムダリヤ川上流域に栄えた青銅器時代の文明です。インダス文明とほぼ同時代に高度な都市文化を築いたことから、「第五の古代文明」と呼ばれることもあります。

位置と時代、そして発見

BMACの中心地は、古代ギリシャ語でバクトリア（現在のアフガニスタン北部）とマルギアナ（現在のトルクメニスタン）と呼ばれた地域に集中していました。乾燥した気候ですが、河川とオアシスを利用した農業が古くから行われていました。ソ連の考古学者ヴィクトル・サリアニディが1976年に命名し、ソ連崩壊後の1990年代に世界的に知られるようになりました。

主要な遺跡としては、ナマズガ・デペやアルティン・デペが挙げられます。これらの遺跡からは、灌漑によって栽培された小麦や大麦、精巧な金属器、土器、宝石、石の印章など、多様な遺物が発見されています。特に印章の図柄は、イラン南東部からの出土品と類似しており、文化交流を示唆しています。マルグッシュ遺跡（ゴヌール・テペ）からは、エラム文字と見られる銘文が刻まれた陶片も発見されています。放射性炭素年代測定によると、BMACの年代はおおよそ紀元前2200年から紀元前1500年頃と推定されていますが、その発展と衰退の過程については、まだ多くの謎が残されています。

BMACの遺物は、発掘地の周辺地域だけでなく、イラン東部、ペルシャ湾岸、バルチスタン、さらにはインダス川流域まで広く分布しています。しかし、BMACの中心地がアフガニスタン南部からバルチスタンにあったとする説もありますが、現時点ではそれを裏付けるような大規模な遺跡は発見されていません。

他の文化との関係

BMACは、メソポタミア文明、エラム文明、インダス文明など周辺地域との活発な交易を行っていたと考えられています。しかし、それら文明とは独立した文明であったのか、それともメソポタミアやエラムからの移住者によって形成されたのか、議論が分かれています。東側では、ガンダーラ墓葬文化（GGC）との深い関係性が指摘されています。一方、北側では同時期に栄えたアンドロノヴォ文化との接触もあったと考えられています。BMACの起源については、アナトリア起源説、エラム文明起源説、メソポタミアからインダス地方にかけた交易圏での独自発展説、タリム盆地先史文化との関連説など、様々な仮説が提唱されています。

アーリア人との関係

BMACが存在した時代は、インド・イラン地域でアーリア人が台頭する直前の時期にあたります。そのため、BMACとアーリア人の関係は重要な研究テーマとなっています。アンドロノヴォ文化を原アーリア文化とする説がありますが、この文化とインド・イランの考古学的文化を結びつけるのは困難です。また、アンドロノヴォ文化がBMACを滅ぼしたという説もありますが、BMACは馬の飼育と戦車の使用による文化の影響を受けたものの、アンドロノヴォ文化の最も古い痕跡はBMACより北方に位置し、紀元前1100年頃のものであるため、この説は必ずしも支持されていません。

サリアニディはBMACを原アーリア文化であると主張し、宮殿跡から発見された大量の灰やケシ、麻黄をアーリア人の拝火儀式、ソーマ（ハオマ）儀式の証拠だと解釈しましたが、BMACは農耕文化であり馬に関連する遺物は少ないため、この説は支持されていません。ジェームズ・マロリーはヴェーダの砦の記述と発掘された城塞を結びつけ、アンドロノヴォ文化がBMACと同化してアーリア文化になったと主張しましたが、BMACとその後の文化は短期間で断絶的に入れ替わっているため、この説も疑問視されています。

インド・イラン語派には、印欧祖語やドラヴィダ語とは異なる基層言語が存在するという説があり、それがBMACの言語であった可能性も示唆されています。また、ガンダーラ地方付近（カシミール）に残るブルシャスキー語との関連性も指摘されています。

BMACは、多くの謎に包まれた未解明な文明です。今後の研究により、その全貌が明らかになることが期待されます。

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