バセットクラリネット

バセット・クラリネットとは

バセット・クラリネットは、クラリネット属の一種で、通常のクラリネットよりも低音域を拡張した楽器です。具体的には、クラリネットの最低音である記音ハ（C3）もしくはさらにその半音下のロ（B2）まで音域を広げることができます。

この拡張された音域によって、モーツァルトが作曲したクラリネット協奏曲 K. 622や五重奏曲 K. 581に記譜された最低音まで演奏することが可能になりました。

歴史

初演当時のバセット・クラリネットは現存していませんが、モーツァルトの協奏曲の初演者であるアントン・シュタードラーが演奏した18世紀末のコンサートプログラムが1992年に発見されました。そのプログラムには楽器の挿絵があり、奇妙な形のベルを持つバセット・クラリネットの姿が描かれていました。この挿絵をもとに、当時の楽器の姿がほぼ忠実に再現されています。

現代のバセット・クラリネットは、通常のクラリネットの下管を長くし、キーを増設した形状が一般的です。

2006年には、モーツァルト生誕250年を記念して、ザルツカンマーグートの「モーツァルト・フェスティバル」で、モーツァルトの協奏曲の形式と演奏時間だけを模した現代音楽の作曲コンクールが開催されました。

誤称について

バセット・クラリネットは、「テナー・クラリネット」と呼ばれることがありますが、これは誤りです。テナー・クラリネットは、トルコの伝統音楽で使用されるG管クラリネットと混同されることがあります。また、カナダのスティーブン・フォックスが制作するボーレンピアース音階の音程を演奏するためのアルトクラリネットとバスクラリネットの中間の中低音クラリネットも、テナー・クラリネットと呼ばれることがあります。

演奏上の問題点

バセット・クラリネットの復元後、ピリオド奏法、モダン奏法を問わず、多くの奏者がモーツァルトの協奏曲を演奏する際にバセット・クラリネットを使用するようになりました。現在では、モーツァルトの協奏曲を演奏するためには欠かせない楽器となっています。

しかしながら、ロ（B2）の音を備えたバセット・クラリネットは高価であり、モーツァルトの協奏曲のためだけに購入するには費用がかかるという問題があります。そのため、教育現場では、現在でも通常のA管クラリネットで演奏されることが少なくありません。

五重奏曲 K. 581においても、バセット・クラリネットを使用する奏者が徐々に増えています。五重奏曲で使用されるバセット・クラリネットはA管です。

バセット・クラリネットの音域は一応4オクターブとされていますが、奏者によってはオーバーブローを用いて4オクターブ半上の変ロ（記譜では変ニ）を発音できることが知られています。

モーツァルトのオペラ『皇帝ティートの慈悲』の第9曲、セストのアリア｢私は行く｣では、B管のバセット・クラリネットのオブリガートが重要な役割を果たします。現在では、普通のB管クラリネットで演奏できる楽譜が普及していますが、近年ではB管のバセット・クラリネットで原曲通りに演奏することも行われるようになっています。

外部リンク

Video: Modern basset clarinet in action (53 Sec.)
Video: Mozart´s lost Clarinet (58 Min.)
* Video: Mozart: La Clemenza di Tito - Marianne Crebassa - "Parto"

もう一度検索