バタシー

バタシー：テムズ南岸の歴史と変貌

ロンドン南部、ワンズワース区に位置するバタシーは、テムズ川南岸に広がる魅力的な地区です。かつてサリーの一部だったこの地は、アングロ・サクソン時代には「バドリックの島」と呼ばれ、長い歴史を刻んできました。9世紀に創建された聖メアリー教会は、詩人ウィリアム・ブレイクの結婚式を挙げた場所としても知られ、アメリカ独立戦争時の将軍ベネディクト・アーノルドもここに埋葬されています。

中世には、聖ペテロ修道院が所有する土地としてドゥームズデイ・ブックに記録され、豊かな農地が広がっていました。ラベンダーやアスパラガス栽培、養豚が盛んで、特に「バタシー包み」として売られていたアスパラガスは特産品でした。産業革命期には、テムズ川の水運を利用した工業地帯として発展。ユグノー移民が持ち込んだ技術を基に、製粉場、醸造所、染色工場などが立ち並びました。モーガン・クルーシブル・カンパニーなど、現在も存続する企業もこの時代から歴史を刻んでいます。バタシー発電所は、1929年から1939年にかけて建設され、独特の外観で知られるランドマーク的存在です。

1838年、ロンドン・アンド・サウサンプトン鉄道の開通はバタシーの運命を大きく変えました。数々の鉄道が交差する交通の要衝となり、クラパム・ジャンクション駅はロンドンでも有数の利用者数を誇る駅となりました。鉄道の建設は人口急増をもたらし、工業地帯としての発展を加速させました。一方、バタシー・パークなどの緑地も残り、対照的な景観を作り出しています。

20世紀に入ると、バタシーは労働者階級の住宅地としても発展しました。多くのカウンシル・エステート（公営住宅）が建設され、特にウィンスタンリー・エステートは、ガレージバンドSo Solid Crewの結成地としても知られています。しかし、同時に貧困や薬物問題などの社会問題にも直面し、劣悪な住環境が問題視されることもありました。近年は、大規模な再開発計画が進行中。古い建物を取り壊し、近代的なマンションが建設され、高級住宅地へと変貌を遂げつつあります。

バタシーの政治史も興味深いものです。社会主義運動の中心地として知られ、1913年にはジョン・アーチャーがロンドン初の黒人区長に就任。また、1922年にはムンバイ出身のシャプルジ・サクラトヴァラがバタシー地区の議員に選出されています。1904年のブラウン・ドッグ事件など、様々な出来事がバタシーの歴史に刻まれています。現在もワンズワース区の一部として、独自の文化と歴史を継承し、発展を続けています。

バタシーの見どころ

バタシーには、多くの観光名所があります。

バタシー発電所: ピンク・フロイドのアルバム『アニマルズ』のジャケットにも使われた、象徴的な建造物。再開発計画が進められています。
バタシー・パーク: 83ヘクタールの広大な公園。動物園や平和パゴダがあります。
バタシー・ドッグズ＆キャッツ・ホーム: イギリスで最も有名な動物保護施設。
ニュー・コヴェント・ガーデン・マーケット: 1974年にコヴェント・ガーデンから移転した青果市場。
聖メアリー教会: ウィリアム・ブレイクやベネディクト・アーノルドにゆかりのある教会。
クラパム・ジャンクション駅: ロンドンで最も混雑する駅の1つ。
バタシー・アーツ・センター: 旧バタシー役場を改装した施設。
シャフツベリー・パーク・エステート: ヴィクトリア朝時代の住宅群。

交通

バタシーには、クラパム・ジャンクション駅、バタシー・パーク駅、クイーンズタウン・ロード駅などの鉄道駅があります。また、バタシー発電所駅も計画されています。

ポップカルチャーにおけるバタシー

バタシーは、小説や映画、音楽作品など、数々のポップカルチャー作品に登場しています。マイケル・デ・ララベッティの小説『A Rose Beyond the Thames』や、ペネロピ・フィッツジェラルドの『テムズ河の人々』などが有名です。

バタシーゆかりの人物

バタシーには、多くの著名人が居住したりゆかりがあったりします。例えば、作家グレアム・グリーン、ミュージシャンエド・シーラン、女優ケイティ・リューングなどが挙げられます。


バタシーは、歴史、文化、自然が調和する、魅力あふれる地区です。再開発によって姿を変えつつも、その歴史と伝統は大切に受け継がれています。

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