バッキー・ハリス (捕手)

バッキー・ハリス：日本プロ野球史に名を刻んだ異色の助っ人

アンドリュー・ハリス・マクギャラード、通称バッキー・ハリス。1908年、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスに生まれた彼は、南カリフォルニア大学を経て、1928年にアメリカマイナーリーグでキャリアをスタートさせました。メジャーリーグ昇格とは無縁でしたが、1931年にはロサンゼルスの日系チーム「L・A NIPPON」の日本遠征に参加。この経験が、彼の運命を大きく変えることとなります。

世界恐慌の影響でマイナーリーグでの生活が厳しくなったハリスは石油会社に就職しながら、L・A NIPPONでプレーを続けました。そこで彼は日系人との親交を深め、やがて1935年には、アメリカ遠征に来ていた大日本東京野球倶楽部との対戦を通して、後の彼の日本でのキャリアに繋がる重要な人物、鈴木惣太郎と出会います。

日本プロ野球での活躍

1936年、日本のプロ野球リーグが創設。名古屋軍の監督、河野安通志は外国人選手の獲得を模索しており、鈴木惣太郎の紹介を通じて、ハリスは名古屋軍に入団します。月給500円という破格の待遇で迎えられたハリスは、その卓越した能力でたちまちファンを魅了しました。同年、春夏通算打率.348、秋季も.310を記録。非日系人のアメリカ人として初めて日本プロ野球でプレーした彼は、その活躍でリーグを代表する選手へと成長しました。

しかし、翌1937年、河野監督が新球団後楽園イーグルスを結成すると、ハリスの獲得に乗り出します。名古屋軍との間で移籍交渉が難航する中、ハリスは一時帰国。移籍に関する当時の不文律を巧みに利用したイーグルスは、ハリスの帰国費用を負担したという噂も流れました。結局、ハリスは6月にイーグルスに入団。春季リーグでは移籍問題の影響で苦戦しましたが、秋季リーグでは17二塁打（当時最多記録）を放ち、打率.310を記録。チームを最下位から3位に押し上げ、その功績からMVPに選出されるという快挙を成し遂げました。

1938年、春季リーグでは打率.324、本塁打王を獲得。秋季リーグでも打率.320と活躍を見せますが、同年限りで退団。日米関係の悪化も影響したとされます。後楽園球場で行われた引退試合では、日本語で感謝の言葉を述べ、多くのファンを感動させました。

戦時中と戦後

太平洋戦争が始まると、ハリスは日本語の能力を買われ、アメリカ陸軍に勧誘され、ミシガン大学で日本語の学習後、フィリピン・レイテ島の捕虜収容所で通訳を務めました。そこで、元阪急軍の捕手・沖克己と出会い、捕虜たちの生活を改善するなど、人間味あふれる一面も見せています。

戦後はカリフォルニア州で事業を経営し、1976年には38年ぶりに日本を訪れ、日本シリーズを観戦。後楽園球場の人工芝に感銘を受けたり、旧知の選手たちとの再会を果たしたりと、日本での思い出を再び味わいました。1978年、ネバダ州ラスベガスで死去。69歳でした。

選手としての特徴と人物像

ハリスは強肩と正確な送球、そして高い打撃センスを兼ね備えた捕手でした。試合前のアトラクションで「樽抜き競争」の王者として知られ、ユニークなプレーでファンを沸かせました。日本語の歌を歌って打者を惑わせたり、巧みなトリックプレーで相手チームを翻弄したりと、そのプレイスタイルは独特で、多くの伝説を残しました。

私生活では、来日中に結婚。妻をアメリカに残し、質素な生活を送るなど、家族を支える責任感の強さも見せていました。また、日本語の勉強にも熱心に取り組むなど、日本文化への理解を深めようとする姿勢は、多くの日本人に好印象を与えました。1976年の来日では、日本の習慣を軽視する外国人選手に厳しく注意するなど、日本の野球界に対する深い愛情を感じさせるエピソードも残しています。

バッキー・ハリスは、その卓越した能力と人間性で、日本のプロ野球史に大きな足跡を残した、まさに伝説的な存在と言えるでしょう。

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