バックラッシュ (社会学)

バックラッシュとは

バックラッシュとは、ある社会的な動きや変化に対して生じる反動や揺り戻しのことを指します。特に、政治や思想的な反発、反感といった意味合いで用いられることが多いです。人種平等、LGBTの権利、社会福祉といった人権活動に対する反動として現れることもありますが、特に顕著なのは、男女平等やジェンダー運動に対する反発、つまり「ジェンダー・バックラッシュ」です。

本稿では、このジェンダーに関するバックラッシュに焦点を当て、その背景や具体的な事例について詳しく解説していきます。

アメリカにおけるバックラッシュ

アメリカでは、1970年代に男女平等を憲法で保障しようとするERA（Equal Rights Amendment）に対して、激しい反対運動が起きました。その後、1980年代に入ると、スーザン・ファルーディの著書『バックラッシュ』で指摘されたように、ジェンダー・バックラッシュと呼ばれる動きが顕著になりました。この動きは、一部の聖職者や伝道師が先導した反フェミニズム運動が源流とされています。

アメリカ議会では、バックラッシュ派によるファミリー・プロテクション・アクト法案の提出など、男女平等を抑制しようとする動きがありました。具体的には、男女の教育の平等を奨励する連邦法の改正や、スポーツや課外活動における男女共学の禁止などが提案されました。

日本におけるバックラッシュ

日本においては、バックラッシュの存在や態様について様々な意見があり、関連する訴訟も発生しています。

社会学者の山口智美氏は、日本時事評論社がフェミニズムへのバックラッシュの先導的な役割を果たしていると指摘しています。一方、日本女性学会は、ジェンダーフリーと共産主義を支持する人が重なるのは偶然であり、両者は別の思想であると主張しています。また、山口氏らは、バックラッシュを主張する人々が主張する過激な性教育の内容の多くが、事実に基づかない誇張であるとしています。

八木秀次氏らは、ジェンダーフリー運動を左翼活動であると批判し、ジェンダーフリーは連合赤軍の思想そのものだと主張しています。『産経新聞』、『正論』や『世界日報』といったメディアも、反共の立場からジェンダーフリーや過激な性教育を批判しています。

平成16年大阪府訴訟

2004年、大阪府豊中市は男女共同参画推進センター『すてっぷ』の非常勤館長であった三井マリ子氏を雇止めしました。これに対し、三井氏は不当な雇止めであるとして市と施設の管理財団を提訴。この裁判は「バックラッシュ裁判」と呼ばれました。

2007年、一審の大阪地裁は三井氏の訴えを棄却しましたが、2010年、大阪高裁は一審判決を破棄し、三井氏の訴えを認めました。高裁は、豊中市が三井氏の行動に反対する勢力の組織的な攻撃に屈し、十分な説明をせずに常勤化・非常勤雇止めを行ったことは人格権の侵害にあたると認定し、市に賠償を命じました。

歴史的背景

山口智美氏らの研究によると、日本では1990年代から2000年代前半にかけて、日本会議や神道政治連盟といった団体が、ジェンダーフリーや過激な性教育、選択的夫婦別姓制度導入などに反対する運動を展開しました。

2004年の大阪府の男女共同参画に関する職員の雇用に関する訴訟は、バックラッシュの一つの現れと見ることができ、2010年に原告の訴えが認められました。また、2005年には、七生養護学校事件をきっかけに、安倍晋三氏を座長、山谷えり子氏を事務局長とする「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が発足。夫婦別姓、男女共同参画条例、性教育、男女混合名簿などについて異議を唱えました。

ジェンダー研究との関係

「ジェンダー研究」そのものが「バックラッシュ」であるという見解も存在します。この見解は、「ジェンダー研究」が、生得的な「女性」「男性」という性の概念を相対化し、個の無限のグラデーションとして捉えることで、フェミニズムそのものの存立を危うくする言説だと捉えていることに起因します。つまり、性が社会的に作られるものであれば、フェミニズムが地位向上を目指すべき「女性」という主体が存在しなくなるため、フェミニズムの立場から「ジェンダー研究」をバックラッシュとみなす考え方があるのです。

まとめ

バックラッシュは、社会の進歩や変化に対して必ずしも好意的に受け止められないことがあることを示唆しています。特に、ジェンダー平等のようなデリケートな問題においては、バックラッシュが社会の進歩を阻害する要因となる可能性があります。そのため、バックラッシュの背景やメカニズムを理解し、適切に対応していくことが重要です。

本稿が、バックラッシュに関する理解を深める一助となれば幸いです。

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