バハル・エル＝ガザル川

バハル・エル＝ガザル川

南スーダン共和国の国土を流れるバハル・エル＝ガザル川は、アラビア語で「ガゼルの川」を意味する名称を持ち、偉大なナイル川水系に属する重要な支流です。この河川は、地球上で最大の湿地帯として知られる広大なスッド地域を蛇行しながら通過し、最終的にノ湖において白ナイル川と合流する地点に至ります。ナイル川を構成する多くの支流の中でも、その独特な地理的・水文学的特性から注目される存在です。

地理と流域

バハル・エル＝ガザル川の全長は約716キロメートルを測ります。特筆すべきは、その水を集める流域の広大さです。約520,000平方キロメートルに及ぶ流域面積は、ナイル川の支流としては最大を誇ります。しかし、この巨大な流域を持つにもかかわらず、川の水文状況は他に類を見ない特徴を示しています。

スッド湿地による水文学的影響

バハル・エル＝ガザル川の最も決定的な特徴は、その流れが世界最大の湿地帯であるスッドを通過することに起因します。この広大な湿地は、川を流れる膨大な量の水を吸収し、強力な蒸発散作用によって失わせてしまいます。このため、バハル・エル＝ガザル川が最終的に白ナイル川へ供給する水量は、その巨大な流域面積からは想像もつかないほど少ないのです。年間の平均供給水量はわずか約2立方メートル毎秒に留まります。また、流量は季節によって大きく変動し、乾季には流れがほとんど観測されない（ゼロに近い）こともあれば、雨季には最大で48立方メートル毎秒程度に達することもあります。このスッド湿地における水資源の喪失は、ナイル川全体の水資源管理において重要な考慮事項となっています。

歴史上の記録

バハル・エル＝ガザル川が、ヨーロッパの地理学者によって初めて詳細な地図上に描かれたのは、18世紀後半のことです。1772年、フランスの著名な地理学者であるジャン=バティスト・ブルギニョン・ダンヴィルによって、この川は体系的に地図化されました。彼の業績は、当時まだ未知の部分が多かったナイル川上流部の地理理解に大きく貢献しました。

周辺地域との関連

この川の名前は、その流域の一部を占める南スーダンの行政区画にも冠されており、「バハル・アル・ガザール地方」と呼ばれています。この地域は川の存在と密接に関連しており、その自然環境や生態系、さらには人々の生活様式にも大きな影響を与えています。

バハル・エル＝ガザル川は、広大な流域を持ちながらもスッド湿地の影響により供給水量が限られるという、水文学的に非常にユニークな性質を持つナイル川の支流です。地理学的な観点からも、南スーダンの自然環境や地域社会との関連においても、その重要性は高いと言えます。その独特な水文特性は、世界の湿地帯と河川システムが相互にどのように影響し合うかを理解するための貴重な事例を提供しています。

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