バラシュヌーム

バラシュヌーム：ゾロアスター教における浄化の儀礼

バラシュヌームは、ゾロアスター教において、死や不浄なものとの接触によって生じた汚れを浄化するための重要な儀礼です。この儀式は、古代から行われており、ゾロアスター教の清浄儀礼の中でも最大規模のものです。

概要

バラシュヌームは、聖火殿に隣接する特別な場所「バラシュヌーム・ガー」で行われます。この場所は、15メートルから25メートル四方の広さがあり、儀式を行うための神聖な空間として区切られています。儀式は、2人の祭司によって執り行われ、依頼人に対して浄化の儀礼が施されます。

バラシュヌーム・ガーは、不浄なもの（カシャ）と聖なるもの（パーウィ）を区別するために、特別な区画に分けられています。パーウィは祭具や死体を置く場所であり、祭司のみが入ることができます。また、儀式を行う場所には、3個または5個の石が交互に並べられた10組の石群が置かれています。これらの石群は、アヴェスターに記述されている9つの穴の代わりとして用いられています。

バラシュヌーム・ガーの構造は、イランとインドで大きな違いはありませんが、石群の配置には違いがあります。イランでは石群が南北方向に配置されているのに対し、インドでは東西方向に配置されています。

手順

インドのナオサリで行われるバラシュヌームの手順を以下に説明します。

祭司の手順

1. 祭具をパーウィの中に置きます。
2. 身体を清め、白い布で口元を覆います。
3. 金属製の器を清め、聖なる牛の尿と聖なる火の灰を少量入れます。
4. 水差しを清め、聖なる水を数滴注ぎます。
5. 祈りを唱え、聖なる水で体を清めます。
6. 脱衣し、西端にある3個の石群の上に置き、石の上で聖なる水で体を清めます。
7. 祈りを唱えながら、服、ターバン、口を覆う白い布を身に着けます。
8. 西端の3個の石群の端に釘のついた棒を置き、東に向かって立ちます。
9. 祈りを唱えた後、「Ašem」と大声で一度、小声で一度発し、地面に棒でカシャを描きます。
10. 最後に祈りを行います。

依頼人の手順

依頼人は、10組の石群の上で儀式を受けます。各石群で、犬が祭司によって依頼人の近くに連れてこられ、依頼人は左手で犬の左耳に触れます。

1. 身体を清め、パーウィに用意された敷物の上に座ります。
2. 祈りを唱えた後、ザクロの木の葉を食べ、聖なる牛の尿を飲みます。
3. 懺悔の祈りを行います。
4. 祭司のうち一人は一旦引き下がり、もう一人は犬を連れて控えます。
5. 依頼人は宣言を行い、脱衣して右手で頭部、左手で局部を覆いながら西端の石群に向かい、しゃがみます。
6. 祭司はパーウィから出て、右手に匙のついた棒、左手に釘のついた棒を持ちます。依頼人に右手の棒を差し出し、依頼人は左手で匙の部分に触れます。
7. 頭部を覆っている依頼人の右手の上に棒を置き、依頼人は棒の端にある匙の上に左手を置きます。
8. 祭司は祈りを唱え、「Ašem」と言いながら棒を依頼人の両手の間から抜き取り、パーウィに引き返します。
9. 祭司は依頼人に匙で聖なる牛の尿を少量ふりかけ、その手にも注ぎます。
10. 依頼人は体全体に聖なる牛の尿をこすりつけます。
11. 依頼人は左手で犬の左耳に触れます。
12. 第一の石群から第六の石群まで、上記の手順を三度ずつ繰り返します。
13. 第七の石群では、砂で18回身体を清めます。
14. 第八、第九、第十の石群においては、聖なる水を使用して3度身体を清めます。
15. 祭司は依頼人の着る服に聖なる水を少量落とし、依頼人が最後に犬を触った左手に聖なる水を注いでパーウィに引き返します。
16. 依頼人は着衣します。
17. 祭司は2本の棒を持って近づき、匙付きの棒を依頼人の左手に当てると、依頼人はその上に自分の右手を重ねて祈ります。
18. 祭司の指示で、「不浄は清められた、体全部が清められた」、「魂は清められた、犬は聖なり、祭司は聖なり」という言葉をそれぞれ三度ずつ繰り返します。
19. 棒が離され、祭司が祈りを行います。

儀式終了後、依頼人は9日間バラシュヌーム・ガーに閉じこもります。この間、食事は他人に給仕してもらい、食事以外の時間は誰とも接触できません。食事は昼間に特別な衣服と手袋を着用し、スプーンを使わなければなりません。また、1日に最低5回の祈りを行う必要があり、木製の椅子や寝床の使用は禁止され、水は飲用以外の用途に使用できません。

4日目、7日目、10日目には、追加の浄化儀式が行われます。これらの儀式では、聖なる牛の尿と聖なる水を用いて体を清め、祈りを捧げます。

アヴェスターにおける記述

アヴェスターには、バラシュヌームに関する記述があり、儀式の手順について詳しく述べられています。この記述は、バラシュヌームが古くから行われていたことを示しています。

儀礼の変化

古代、バラシュヌームは、死体悪魔によって不浄になったゾロアスター教徒が、不浄を取り除くために行われていました。古代には、野外の解放された場所で行われていましたが、イランのイスラーム化以降は、異教徒の視線を避けるために周囲を壁で覆うようになりました。また、古代には9つの穴を掘って儀式が行われていましたが、中世以降は5個からなる石群を10組置いて代用するようになりました。

現代においては、一般人が行うバラシュヌームは減少し、祭司のみが行う形へと変化しました。現代では、祭司が儀式を行う上で清浄になることが必要な場合に行われるほか、一般人は聖職者に謝礼を払い、代理でバラシュヌームを執り行うことを依頼する形で行われています。

バラシュヌームは、ゾロアスター教徒にとって非常に重要な儀礼であり、その複雑な手順と象徴的な行為は、心身の浄化を促す上で重要な役割を果たしています。

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