バルタザールどこへ行く

映画『バルタザールどこへ行く』について

ロベール・ブレッソン監督が1966年に発表したフランス・スウェーデン合作映画『バルタザールどこへ行く』（原題: Au Hasard Balthazar）は、一頭のロバの視点を通して、人間の罪と愚かさを描いた作品です。

概要

この映画は、人間の日常に潜む残酷さや無関心を、ロバのバルタザールという存在を通して浮き彫りにします。物語は、バルタザールが生まれてから死ぬまでの生涯を追っており、その中で様々な人間のエゴや欲望、暴力に晒される様子を描いています。ブレッソン監督は、ドストエフスキーの長編小説『白痴』のエピソードから着想を得たと語っています。また、本作はアンヌ・ヴィアゼムスキーの映画初出演作としても知られています。

映画評論家や監督からの評価も非常に高く、フランソワ・トリュフォーは「美しい。ただ美しいの一言に尽きる」と絶賛し、イングマール・ベルイマンは「映画は退屈だが、人間は常に興味深いものである」と評しました。その他にも、ジャン・リュック・ゴダール、ミヒャエル・ハネケ、ウェス・アンダーソン、ヴェルナー・ヘルツォークなど、多くの映画監督が本作を高く評価しています。2022年には、イエジー・スコリモフスキ監督の『EO イーオー』が、本作にインスパイアされて制作されました。

公開

『バルタザールどこへ行く』は、1966年5月15日に第19回カンヌ国際映画祭で上映され、同年5月25日にフランスで一般公開されました。

日本では、1966年10月に開催された第4回「フランス映画祭」で、『バルタザールがゆきあたりばったり』というタイトルで上映されました。その後、1970年5月2日に一般公開されています。2020年10月には、4Kリストア・デジタルリマスター版がリバイバル公開され、再び注目を集めました。

あらすじ

物語の舞台は、ピレネー山脈の小さな村です。教師の娘マリーと農園主の息子ジャックは、生まれたばかりのロバに「バルタザール」と名付け、可愛がっていました。しかし、ジャックが引っ越すことになり、バルタザールもどこかへ連れて行かれてしまいます。

10年後、バルタザールは鍛冶屋の労役に使われていましたが、そこから逃げ出し、成長したマリーが住む、かつてのジャック家の農園にたどり着きます。マリーはバルタザールとの再会を喜びますが、彼女に恋心を抱く不良のジェラールは嫉妬し、バルタザールを虐待します。さらに、パリで教育を受けていたジャックが帰郷し、マリーに求婚しますが、彼女はそれを拒否します。バルタザールは、不良グループに構われる浮浪者と親しくなりますが、争いに巻き込まれて怪我をし、最後は道端で息絶えてしまいます。

音楽

映画全編を通して、シューベルトのピアノ・ソナタ第20番イ長調D.959 第2楽章アンダンティーノが印象的に使用されています。この音楽は、バルタザールの悲哀や物語の静けさを際立たせ、観る者の心に深く響きます。ピアノ演奏は、ジャン＝ジョエル・バルビエが担当しています。

作品の魅力

『バルタザールどこへ行く』は、その独特な映像美と、人間の愚かさを鋭く描き出すストーリーで、観る者を魅了します。ロバの視点を通して語られる物語は、私たちが普段見過ごしている人間の残酷さや無関心を、改めて考えさせられるきっかけとなるでしょう。また、シューベルトの音楽が、作品の雰囲気をより一層深めています。

この作品は、映画史に残る傑作として、今もなお多くの人々に愛され続けています。

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