EO イーオー

EO イーオー：ロバの魂の旅路

イエジー・スコリモフスキ監督による2022年の映画『EO イーオー』は、ロベール・ブレッソンの名作『バルタザールどこへ行く』を彷彿とさせる、一匹のロバの波乱に満ちた生涯を描いたドラマ・ロードムービーです。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされるなど、高い評価を獲得しています。

物語の中心は、ポーランドのサーカスで生まれたロバ、EOです。美しい女性カサンドラと心を通わせ、ショーに出演するEOですが、サーカスが倒産し、動物たちは次々と売られていきます。EOは、荷車を引いたり、観光用のロバ牧場で働いたりしながら、過酷な現実を生き抜いていきます。

EOの旅は、様々な場所、様々な人間との出会いを通して展開します。美しい馬たちと触れ合う穏やかな時間、カサンドラとの再会、そして、冷酷な人間のエゴイズムと暴力の犠牲になる場面。サッカーの試合会場で群衆に翻弄されたり、毛皮農場で働く残酷な現実、トラックの運転手との出会いそしてその死など、EOの視点は、時にユーモラスに、時に悲痛に、人間の社会と、そこに生きる動物たちの姿を映し出します。

スコリモフスキ監督は、EOの目を通して人間の社会の光と影を浮き彫りにします。EOは言葉を話せませんが、その表情や行動を通して、複雑な感情を表現し、観客の心に深く訴えかけてきます。時に優しく、時に怒り、時に悲しむEOの姿は、まさに動物と人間の共存、そして人間の残酷さを問いかける、痛烈なメタファーとなっています。

映画全体を通して、EOのひたむきな生き様は、希望と絶望、喜びと悲しみ、そして人間の残酷さと優しさが複雑に絡み合い、観る者の心を揺さぶります。EOの旅路は、決して楽なものではありませんが、その中でEOは、自分自身の生を全うしようとします。

ラストシーンで示唆されるEOの運命は、観る者それぞれに異なる解釈を促すでしょう。それは、EOというロバの物語を超え、人間の存在そのもの、そして命の尊さについて深く考えさせられる、余韻の残る作品となっています。

キャスト

カサンドラ：サンドラ・ドルジマルスカ
ヴィトー：ロレンツォ・ズルゾロ
マテオ：マテウシュ・コシチュキェヴィチ
伯爵夫人：イザベル・ユペール

評価

Rotten Tomatoesでは96%の高支持率、Metacriticでも85/100の高い評価を得ており、批評家からも絶賛されています。ブレッソンの名作へのオマージュでありながら、現代社会の闇を鮮やかに描き出したスコリモフスキ監督の演出力も高く評価されています。『カイエ・デュ・シネマ』の2022年のトップ10リストにもランクインしています。

『EO イーオー』は、動物と人間の共存、そして人間の残酷さと優しさについて深く考えさせられる、感動と衝撃に満ちた作品です。忘れがたい映像美と、ロバEOの魂の叫びは、観る者の心に長く残ることでしょう。

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