バルディーズ (アラスカ州)

バルディーズ

アラスカ州南部に位置する港湾都市、バルディーズは、その地理的重要性から古くからアラスカ内陸部への玄関口としての役割を担ってきました。2020年の国勢調査では人口3,985人を数え、州内で有数の重要な港湾として知られています。その名は1790年、スペインの探検家サルバドール・フィダルゴによって、当時の海軍大臣アントニオ・バルデス・イ・フェルナンデス・バサンに敬意を表して命名されたとされています。

歴史

バルディーズの歴史は、1898年のクロンダイク・ゴールドラッシュに遡ります。一攫千金を夢見た人々がこの地に集まり、町の基礎を築き始めました。当時の蒸気船会社は、バルディーズ氷河を経由するルートが、他のルートよりもクロンダイクの金鉱地帯へ容易に到達できるかのように宣伝しました。また、アラスカ内陸部のコッパー川流域でも金が発見されたと喧伝されたことで、多くの採掘者がこの地を目指しました。しかし、実際に氷河トレイルを歩いた人々は、その過酷な現実を思い知らされることになります。宣伝された距離の倍以上もある険しい道のりは、多くの挑戦者の体力を奪い、長い冬の間には栄養不足による壊血病に苦しむ者も少なくありませんでした。

1899年にバルディーズとフェアバンクスを結ぶリチャードソン・ハイウェイが開通した後も、町の急速な発展は見られませんでしたが、この新しい道路と冬季でも凍結しない港のおかげで、バルディーズはアラスカ内陸部への陸上輸送ルートとしての地位を確固たるものにしました。ハイウェイは1950年代には年間を通じて通行可能となり、交通の便はさらに向上しました。

かつては銅山の富もバルディーズにもたらされるかに見えましたが、1907年には海岸部とケニコット銅山を結ぶ鉄道建設計画が頓挫するという出来事がありました。ライバル関係にあった鉄道会社間の用地争いが衝突に発展し、死者も出る事態となったためです。銅山は北米でも最大級の鉱床を擁していましたが、結局、銅山への鉄道はバルディーズではなく、ランゲル・セントイライアス山地の反対側にあるコードバから建設されることになりました。峡谷に残る未完成のトンネルは、バルディーズにおける鉄道時代の終わりの名残と言えます。

町にとって最大の試練は1964年のアラスカ地震でした。地震の揺れ自体で直ちに破壊されたわけではありませんでしたが、液状化現象により地盤が沈下し、海岸の堤防が損壊したことで市街地は大規模な浸水に見舞われました。さらに、西方から押し寄せた高さ9.1メートルにも及ぶ津波がバルディーズ湾一帯を襲いました。津波発生時、港には定期船の荷下ろしを手伝ったり見物したりしていた人々が32人おり、ドックの崩壊と共に海に投げ出されて全員が命を落としました。町で亡くなったのはこの32人のみでした。

地震から3年後、市街地は元の場所から約6キロメートル離れた、より安定した地盤の場所へ移転されることになりました。アメリカ陸軍工兵司令部の監督のもと、54棟の建物がトラックで慎重に運ばれ、現在の場所に新しい街が再建されました。元の市街地は解体され、放棄されています。

1970年代後半には、プルドーベイ油田で産出された原油を南端のバルディーズ港まで輸送するためのトランス・アラスカ・パイプラインが建設されました。パイプラインで運ばれてきた原油は、バルディーズの石油ターミナルから大型タンカーに積み替えられ、さらに輸送されます。この巨大プロジェクトは市の経済に活気をもたらしました。

1989年には、バルディーズの石油ターミナルを出港した直後の大型タンカーが沖合の暗礁に乗り上げ、大規模な原油流出事故（エクソンバルディーズ号原油流出事故）が発生しました。原油は市内には到達しませんでしたが、周辺海域の野生生物に深刻な被害を与えました。原油の除去作業は一時的に町の経済を押し上げる結果にもなりました。

地理と気候

バルディーズはプリンス・ウィリアム湾の最奥部、フィヨルドの突き当たりに位置しており、周囲を厚い氷河を頂いたチュガック山脈に囲まれています。アメリカ合衆国国勢調査局によれば、2023年時点の市域全面積は約704平方キロメートル（陸地約551平方キロメートル、水域約153平方キロメートル）です。バルディーズの港は、北米大陸で最も北にある年間を通じて凍結しない「不凍港」として非常に重要です。市内にあるブルーベリー・ヒルは、太平洋岸温帯樹林の分布北限としても知られています。

温暖なイメージを持つ温帯雨林が近くに存在しますが、気候区分上は亜寒帯湿潤気候（Dfc）に分類されます。ただし、標準的な亜寒帯湿潤気候よりも冬季の寒さは和らぎますが、より海洋性気候の影響を受ける南部の都市ほど温暖ではありません。バルディーズは記録的な積雪量でも知られており、アメリカ海洋大気庁などによれば、年間平均で750センチメートルもの雪が降る、アメリカで最も積雪量の多い場所の一つです。過去には、一シーズンのうちに月間2.5メートルを超える降雪が5ヶ月も続いた年もありました。

経済と産業

バルディーズの経済は多様な柱によって支えられています。港湾機能は商業漁業やスポーツフィッシングの拠点であると同時に、アラスカ内陸部への重要な貨物輸送ルートとしての役割を担っています。景観豊かな海岸線や周辺の氷河を活かした観光業も盛んで、沖合での釣りや、ヘリコプターで山頂まで移動して斜面を滑り降りるヘリスキーといったアウトドア・アクティビティが人気です。市内には複数のヘリスキー事業者があり、かつてはエクストリームスキーの世界選手権も開催されていました。

最も重要な産業の一つは石油関連です。バルディーズ石油ターミナルは、トランス・アラスカ・パイプラインで運ばれてくる北極圏の原油をタンカーに積み替える施設です。アリエスカ・パイプラインサービス社は市内で最大規模の雇用主ですが、市がタンカーに対して課税を決定したことを受け、一部部署をアンカレッジの本社へ移転する動きがあり、これは市の経済や人口動態に影響を与えています。

交通

バルディーズはリチャードソン・ハイウェイによってアラスカ内陸部と接続されており、陸路でのアクセスが可能です。また、アラスカ・マリンハイウェイと呼ばれるフェリー航路の主要な港の一つでもあり、船による移動も選択できます。リチャードソン・ハイウェイを北上した場所にあるトンプソン峠は、壮大な滝や氷河の景色で知られる景勝地ですが、冬季は深い積雪や雪崩のリスクが高く、通行には注意が必要です。空路については、市街地から東に約6キロメートル離れたバルディーズ空港（パイオニア・フィールド）があり、グラントアビエーションやエラ・アラスカといった航空会社が就航しています。

バルディーズ石油ターミナル

トランス・アラスカ・パイプラインの南端に位置するバルディーズ・マリンターミナルは、プルドーベイ油田からの原油の最終集積地です。事故を起こしたタンカー、エクソン・ヴァルディーズ号もこのターミナルから出港していました。施設内には18基の巨大な石油タンクがあり、パイプラインが稼働を開始した1977年以降、累計で1万5千隻以上のタンカーがここから原油を運び出しており、毎週平均3隻から5隻のタンカーが発着しています。

文化とメディア

バルディーズは規模は小さいながらも地域メディアが存在し、かつては2紙の週刊紙が発行されていましたが、現在はバルディーズ・スター紙が唯一の地域紙となっています。文化活動としては、プリンス・ウィリアム湾コミュニティカレッジが主催するラストフロンティア映画評議会が毎年開催され、全米から脚本家や俳優などが集まるイベントとなっています。また、バルディーズやその周辺地域は、ゲームや映画の舞台としても登場しています。PCゲーム『バトルフィールド2』の拡張パックや『バトルフィールド バッド カンパニー2』のマルチプレイマップには、バルディーズ港や石油ターミナルをモデルにした架空の場所が登場します。1994年の映画『沈黙の要塞』では、ワーシントン氷河付近やバルディーズ市民センター、バルディーズ空港、さらにはトンプソン峠などでロケが行われました。

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