バロキサビル

バロキサビル マルボキシル（ゾフルーザ）について

バロキサビル マルボキシル（Baloxavir marboxil）は、A型およびB型インフルエンザの治療に用いられる抗ウイルス薬です。商品名「ゾフルーザ」（XOFLUZA）として、塩野義製薬によって開発されました。2018年2月23日に製造承認を受け、同年3月14日に販売が開始されています。この薬は、インフルエンザウイルス感染の可能な限り早期に服用することが推奨されています。

ゾフルーザは、ロシュとの開発提携を通じて、塩野義製薬が開発したエンドヌクレアーゼ阻害薬に分類されるインフルエンザ治療薬です。この薬の最大の特徴は、1回の服用で治療が完了することです。2017年10月に承認申請が行われ、先駆け審査指定制度の対象として、迅速な審査を経て承認・発売に至りました。

作用機序

ゾフルーザは、従来のノイラミニダーゼ阻害薬（タミフルやリレンザなど）とは異なるメカニズムで作用します。ノイラミニダーゼ阻害薬がウイルスを感染細胞から遊離させるのを阻害するのに対し、ゾフルーザは細胞内でのキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害します。これにより、ウイルスが細胞内で増殖する際に必要な酵素をブロックし、ウイルスのmRNA複製を阻止します。この全く新しい作用機序により、ウイルスは増殖できずに死滅し、結果として1回の投与で速やかに症状を抑制する効果が期待できます。

ノイラミニダーゼ阻害薬と比較して、ゾフルーザはより早期に効果を発揮するとされ、投与翌日には半数以上の患者で感染性を持つウイルス量が減少することが確認されています。これにより、高い抗ウイルス効果が期待できます。

耐性について

インフルエンザウイルスは、薬剤に対して抵抗力を持つ耐性を獲得する可能性があります。2019年には、A/H3N2亜型ウイルスにおいて、9.5%（21株中2株）に耐性株が見つかったと報告されています。薬剤感受性試験では、A型ウイルスで100倍以上、B型ウイルスで50倍以上の感受性低下が確認された場合、そのウイルスは耐性ウイルスと判定されます。そのため、ゾフルーザの使用には、耐性ウイルスの出現を考慮した慎重な対応が求められます。

小児への投与

ゾフルーザは小児への投与も可能であり、添付文書には体重10kg以上の小児に対する用法・用量が記載されています。しかし、日本小児科学会は2019年10月に、12歳以下の小児への本剤の使用を「推奨しない」とするインフルエンザ治療指針を公表しました。これは、小児における使用経験が少ないことや、薬剤耐性ウイルスの出現リスクを考慮したものです。そのため、小児のインフルエンザ治療においては、他の薬剤の使用が推奨されています。

日本感染症学会インフルエンザ委員会は、小児への使用を非推奨とはしなかったものの、「小児では慎重に投与を検討すべき」との提言を発表しており、注意が必要です。

売上と薬価

ゾフルーザは、2018年3月の発売後、国内医療機関での売り上げが急速に伸び、発売から半年間で抗インフルエンザ薬市場の65%を占めるシェア1位となりました。同期間の国内売上高は4億6千万円に達しています。一方、複数回投与が必要なタミフルは、ジェネリック医薬品の登場により、備蓄薬を除くとほぼ売り上げがなく、前年度売上首位だった1回投与吸入薬イナビルも1億円にとどまっています。

ゾフルーザの薬価は4,789円（20mg 2個）と高額であり、タミフル（2,720円、75mg 2個を5日分）、同ジェネリック（1,360円）、イナビル（2,139.9円、1キット）と比較しても高価です。また、インフルエンザウイルスA/H3N2では治療中に約10%が耐性化する可能性も指摘されているため、医療機関によっては採用を見送るケースも出ています。

重要な基本的注意

インフルエンザ罹患時には、抗インフルエンザウイルス薬の服用に関わらず、異常行動が報告されています。また、細菌感染症が疑われる場合には、抗菌薬の投与など適切な処置が必要です。

ゾフルーザの服用により、出血（血便、鼻出血、血尿など）が起こる可能性があり、患者とその家族への十分な説明が必要です。これらの症状が現れた場合は、速やかに医師に連絡する必要があります。出血症状は、投与数日後にも現れることがあるため、注意が必要です。これらの注意は、2019年3月に国内での副作用症例（出血関連）の集積を受け、添付文書に追記されました。出血関連症例25例のうち、13例は因果関係が否定できず、3例の死亡例が含まれていました。

相互作用

新たに相互作用の項目が設けられ、「併用注意」として抗凝固薬である「ワルファリン」が追記されています。これらの薬を併用する際は、慎重な対応が必要です。

副作用

「重大な副作用」の項に「出血」に関する注意が追記され、血便、鼻出血、血尿などの症状が現れた場合には適切な処置を行うことが求められます。さらに、2020年4月には「虚血性大腸炎」が追記され、ゾフルーザの副作用として注意が必要です。

出典

抗インフルエンザウイルス剤ゾフルーザ - シオノギ製薬（塩野義製薬）

外部リンク

抗インフルエンザウイルス剤ゾフルーザ - シオノギ製薬

もう一度検索