虚血性大腸炎

虚血性大腸炎：大腸の血流障害による疾患

虚血性大腸炎とは、大腸への血液供給が不足することで大腸組織が損傷を受ける疾患です。腹痛と血便が主な症状として現れ、高齢者に多くみられますが、近年は若年層の発症例も報告されています。

病態

この病気は、大腸に血液を供給する動脈の血流が一時的に遮断されることが原因です。上腸間膜動脈の閉塞とは異なり、上腸間膜動脈自体の閉塞は認められません。血流の減少によって大腸壁の粘膜やその内層が損傷を受け、潰瘍やびらんが生じ、出血を引き起こします。

血流減少の原因は多岐に渡り、完全に解明されているわけではありません。しかし、心臓疾患、高血圧、糖尿病、大動脈手術歴、血液凝固異常、便秘といった病歴を持つ方、特に女性に発症しやすい傾向が見られます。また、特定の薬剤の副作用として発症する場合もあります（薬剤性腸炎）。

症状

虚血性大腸炎の症状は、大きく分けて一過性型、狭窄型、壊死型の3つのタイプに分類されます。

一過性型: ほとんどの症例（90％以上）がこのタイプで、1～2週間程度で自然に回復します。最も頻度の高い症状は激しい腹痛で、左下腹部痛が多いものの、腹部の様々な部位に痛みを感じることがあります。下痢を伴い、血便や粘血便を排出することが特徴的です。場合によっては、血液や粘液のみを排泄する下血がみられることもあります。発熱もみられますが、37℃台にとどまることが多く、38℃以上の高熱は稀です。
狭窄型: 腹痛や下痢が1ヶ月程度持続した後、嘔吐、腹部膨満感、腸閉塞などの症状が現れます。
* 壊死型: 非常に激しい腹痛と嘔吐を伴い、穿孔、敗血症、ショックといった重篤な合併症を引き起こし、生命に危険が及ぶ可能性があります。

診断

60歳以上の高齢者で、腹痛と出血症状を訴える場合、虚血性大腸炎が強く疑われます。診断には、大腸内視鏡検査が不可欠です。内視鏡検査によって、虚血性大腸炎と他の類似疾患（潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性腸炎、腸結核、腸重積、絞扼性イレウス、上腸間膜動脈血栓症、大腸憩室症など）を鑑別診断します。

治療

虚血性大腸炎の治療は原則入院で行われます。まず、腸を休ませるために絶食を行い、点滴で水、電解質、栄養素を補給します。二次感染の予防のために抗生物質が投与される場合もあります。通常、2～3日以内に抗生物質の投与を中止し、食事を再開します。一過性型であれば、1～2週間で症状は改善します。

狭窄型や壊死型のように重症な場合は、外科手術が必要となることがあります。腸の一部または全部を切除する手術が行われる場合があります。

予後

一過性型であれば、適切な治療により、多くの場合良好な予後が期待できます。しかし、狭窄型や壊死型は重症化しやすく、予後も不良となる可能性があります。早期診断と適切な治療が重要です。

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