バンダイナムコ未来研究所

バンダイナムコ未来研究所：品川に佇んだ未来型オフィスビルの軌跡

東京都品川区に存在した「バンダイナムコ未来研究所」は、バンダイナムコエンターテインメントを始めとする同グループ各社が2007年から2016年まで本社を構えたビルとして知られています。単なるオフィスビルではなく、その歴史、設計、そして解体に至るまでの過程は、企業の変遷と都市開発の一端を垣間見せる興味深い物語です。

松下電器産業時代の先進的設計

この建物は、当初松下電器産業（現パナソニックホールディングス）の研究開発・営業拠点として建設されました。東京における同社の象徴的な存在として、快適性と柔軟性を追求した設計が施されています。

周辺環境への配慮から、建物の高さを抑え、緑化を進めることで景観への影響を最小限に抑えました。台形にセットバックした外形は、日影や風害を軽減する効果も期待されていました。

内部には、建築家・片山利弘氏デザインによる特徴的な台形のアトリウムが配置されています。アトリウムは東側のカーテンウォールとガラス屋根からの自然光が降り注ぎ、開放的な空間を創出。1階には片山氏による彫刻作品も設置され、芸術性も兼ね備えた設計となっています。

事務室はスーパーフレーム構造による柱のない空間（スペースウィング）で、自由度の高いレイアウトが可能でした。空調は各フロアの機械室から二重床を通じ、自由に位置変更可能な床面吹き出し口から送風されるという、当時としては先進的なシステムが採用されていました。

バンダイナムコグループの本社として

松下電器産業が撤退した後、2006年11月、バンダイナムコゲームス（現バンダイナムコエンターテインメント）は、分散していた本社機能を集約する目的で、このビルへの移転を発表しました。2007年5月より業務を開始し、「未来のすべての人々に新しい遊びを提供していく」という理念を込めて「バンダイナムコ未来研究所」と命名されました。2009年にはバンダイナムコホールディングスも本社を移転させました。

解体と新たな始まり

2014年11月、さらなるグループ連携強化と業務効率向上を目指し、バンダイナムコホールディングスは港区芝への本社移転を発表。2016年1月より新築された住友不動産三田ビルに移転し、「バンダイナムコ未来研究所」の名称は継承されました。

旧本社ビルは2016年2月1日より解体工事が開始され、跡地には積水ハウスによる分譲マンション「グランドメゾン品川シーサイドの杜」が建設されました。興味深いのは、旧本社ビルで使用されていた石材が、このマンションの外構に再利用されている点です。

2021年5月26日には、バンダイナムコエンターテインメントの自社スタジオ「未来研スタジオ」が港区芝の本社にオープンし、新たな歴史が刻まれています。

受賞歴と建築史における位置づけ

バンダイナムコ未来研究所（旧松下電器産業東京本社ビル）は、1994年度グッドデザイン賞、第6回省エネルギー建築賞建設大臣賞を受賞するなど、その建築デザインと環境への配慮が高く評価されました。

アトリウムを持つオフィスビルとしては、日建設計が手掛けた新宿NSビルや日本電気本社ビルなどが挙げられます。これらの建物と比較検討することで、バンダイナムコ未来研究所の設計思想や時代背景をより深く理解することができます。

このビルの歴史は、企業の成長と都市開発、そして建築デザインの変遷を物語る重要な事例と言えるでしょう。環境への配慮と先進的な設計思想が融合した「バンダイナムコ未来研究所」は、未来への展望を示唆する存在として、その記憶を未来へと繋いでいくことでしょう。

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