バンデルレイ・デ・リマ

バンデルレイ・コルデイロ・デ・リマ：不屈の精神とフェアプレー

バンデルレイ・コルデイロ・デ・リマ（Vanderlei Cordeiro de Lima、1969年 7月4日 - ）は、ブラジルを代表する長距離走選手です。2004年アテネオリンピック男子マラソンでの銅メダル獲得、そして、そのレースで示されたスポーツマンシップは、世界中の人々に感動を与えました。南米出身者として唯一、国際オリンピック委員会（IOC）からピエール・ド・クーベルタン・メダルを授与されています。

2004年アテネオリンピック：悲劇と栄光

アテネオリンピックの男子マラソンは、世界記録保持者のポール・テルガトをはじめ、アトランタ、シドニー五輪のメダリストら強豪が集う激戦でした。レース中盤、デ・リマは集団から抜け出し、快調にペースを上げていました。35km地点では、2位との差を25～30秒、約150メートルまで広げ、優勝も目前でした。

しかし、その時、沿道から乱入した元カトリック聖職者によって、進路を妨害されるという前代未聞の事態が発生しました。コース外に押し出されたデ・リマは、観客の助けによりレースに復帰しましたが、この妨害によってタイムロスだけでなく、集中力も大きく損なわれました。結果、イタリアのステファノ・バルディーニ、アメリカのメブ・ケフレジキに抜かれ、3位でゴール。銅メダルに終わりました。

レース後の記者会見で、デ・リマは「完走できたこと、そしてオリンピックのメダルを獲得できたことを嬉しく思っている。この銅メダルは、神からの試練だ」と、妨害行為を行った人物を非難することなく、自身の心情を語りました。この彼のフェアプレー精神に感銘を受けたIOCは、デ・リマに特別賞ピエール・ド・クーベルタン・メダルを授与することを決定。同年12月、リオデジャネイロで公式式典が開催され、メダルが贈呈されました。この式典には、デ・リマを助けた観客も招待されました。

ブラジルオリンピック委員会は、デ・リマに金メダルを授与するよう求めましたが、これは実現しませんでした。なお、レースを妨害した人物は、過去にもF1レースに乱入して逮捕された経歴を持っていました。

生い立ちと陸上競技との出会い

1969年、パラナ州の農家で生まれたデ・リマは、幼少期から農作業を手伝い、プロサッカー選手を夢見ていました。14歳で体育教師の勧めで陸上競技を始めると、その才能を開花させ、州大会で初優勝を飾ります。

陸上選手としての軌跡

クロスカントリー選手としてキャリアをスタートさせたデ・リマは、1989年と1992年の世界クロスカントリー選手権にブラジル代表として出場。1993年には南米クロスカントリー選手権で銅メダル、1995年には同大会で優勝を果たしました。

1992年、陸上競技コーチのリカルド・ダンジェロとの出会いが、デ・リマのキャリアを大きく変えることになります。その後、マラソンに専念することになったのは、1994年フランスのランスマラソンでの出来事がきっかけでした。ペースメーカーとして参加したレースで、そのまま走り続け、2時間11分6秒で優勝。この勝利が、マラソンランナーとしてのデ・リマを誕生させたのです。

1996年の東京国際マラソンでは、南米記録となる2時間08分38秒で優勝。同年のアトランタオリンピックにも出場しましたが、47位に終わりました。1998年には、東京国際マラソンで自身の南米記録を更新する2時間08分31秒で2位、ニューヨークシティマラソンで5位と好成績を収めました。

1999年のパンアメリカン競技大会では、マラソンで金メダルを獲得。主要国際大会で初のタイトル獲得となりました。同年、福岡国際マラソンでは3位に入賞。2000年のロッテルダムマラソンでは2時間8分34秒を記録し、3位入賞を果たしました。これらの実績により、シドニーオリンピックの出場権を獲得しましたが、体調不良のため75位という結果に終わりました。

その後も、別府大分マラソンでの2位入賞、サンパウロ国際マラソンでの優勝など、数々のレースで活躍しました。2003年のサントドミンゴパンアメリカン競技大会では、高温多湿の厳しい環境の中、2度目の優勝を果たしました。そして、2004年のハンブルクマラソンでの優勝を経て、アテネオリンピックへと臨むことになります。

アテネオリンピック後

アテネオリンピック後もマラソンを続けましたが、怪我の影響もあり、2009年のパリマラソンを最後にマラソン選手としてのキャリアを終えました。2016年には、リオデジャネイロオリンピックの開会式で、聖火台に点火する最終走者という栄誉を受けました。

日本との繋がり

デ・リマは、日本の男子マラソン大会にたびたび出場し、好成績を収めています。また、TBS『オールスター感謝祭』の「赤坂5丁目ミニマラソン」にも、ゲストランナーとして2度参加しています。

主なマラソン成績

1994年ランスマラソン優勝
1996年東京国際マラソン優勝
1998年東京国際マラソン 2位
1999年パンアメリカン競技大会優勝
2000年ロッテルダムマラソン 3位
2001年別府大分マラソン 2位
2002年サンパウロ国際マラソン優勝
2003年パンアメリカン競技大会優勝
* 2004年ハンブルクマラソン優勝

バンデルレイ・デ・リマは、その競技力だけでなく、スポーツマンシップと人間性においても、世界中のアスリートの模範となる存在です。

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