バントゥースタン

バントゥースタン：アパルトヘイトが生んだ隔離された「故郷」

バントゥースタンとは、かつて南アフリカ共和国でアパルトヘイト政策の一環として設けられた、黒人居住区を基盤とする自治区、および「独立国」のことです。南アフリカ政府はこれを「ホームランド」と呼んでいました。

バントゥースタン設立の背景

アパルトヘイトは、1948年に法制化された人種隔離政策であり、その根源は、白人が黒人から土地を奪うという歴史的経緯にあります。1913年の原住民土地法により、黒人が所有できる土地は国土のわずか13%に制限されました。

1950年代に入ると、バントゥー統治機構法（1951年）により、黒人は南アフリカ政府が定めた「部族」に分類され、それぞれの部族ごとに居住地が割り当てられました。1959年には、バントゥー自治促進法が制定され、南アフリカを白人地域（87%）と黒人地域（13%）に分け、黒人地域にバントゥースタンを創設するという構想が打ち出されました。

この政策の推進者であった首相フルウールトは、国際社会の批判をかわすために、バントゥースタンに一定の自治権を与え、将来的に独立させるという方針を打ち出しました。これにより、南アフリカで働く黒人労働者を「外国人労働者」とみなし、労働者としての権利を制限することが可能になると考えられていました。

バントゥースタンの独立と実態

1976年にトランスカイが最初に「独立」し、その後、ボプタツワナ、ヴェンダ、シスカイが続きました。しかし、これらの「独立」は国際的に承認されず、国連はこれらの国々を「TBVC諸国」と呼び、承認しませんでした。南アフリカ政府以外にこれらの「独立」を承認した国はありませんでした。

バントゥースタンは、その設立当初から国内外からの強い批判にさらされました。黒人を強制的に部族ごとに再編成し、劣悪な環境の土地に住まわせることは、人道に反する行為であると非難されました。スティーヴ・ビコは、バントゥースタンが「白人の政治家が考案した最大の詐欺」であると断言し、その実態を以下のように指摘しています。

指定された地域は、開発が遅れ、農業や牧畜に適さない土地である。
海に面したバントゥースタンはなく、鉱物資源の権利は南アフリカ政府が握っている。
予算が極端に少なく、経済活動は「バントゥー投資公社」に支配されている。
境界地域の工場では、低賃金で労働組合も組織できない。

バントゥースタンの多くは、南アフリカ政府からの財政援助に大きく依存しており、その「国民議会」の議席も指名議席が多くを占めていました。多くの人々が、強制的に移住させられ、生活基盤を奪われました。

バントゥースタンの崩壊と再統合

バントゥースタンの指導者たちは、アパルトヘイト体制の協力者として、黒人大衆から反感を買っていました。しかし、1988年にトランスカイでクーデターを起こしたホロミサ将軍は、アフリカ民族会議の活動を容認するなど、大衆の支持を得ました。

1994年、南アフリカの暫定憲法発効により、バントゥースタンは南アフリカに再統合されました。一部地域では独立維持を望む動きもありましたが、最終的には全て再統合されました。

バントゥースタンは、アパルトヘイト政策の負の遺産として、南アフリカの歴史に深く刻まれています。人種隔離政策が生み出した悲劇を忘れることなく、教訓として未来に活かしていく必要があります。

バントゥースタン一覧

南アフリカ

独立国

トランスカイ（1976年）
ボプタツワナ（1977年）
ヴェンダ（1979年）
シスカイ（1981年）

自治区

クワズールー（1972年）
レボワ（同年）
ガザンクル（1973年）
クワクワ（1974年）
カングワネ（1977年）
クワンデベレ（1981年）

南西アフリカ

南アフリカに国際法上違法に併合されていた南西アフリカ（現ナミビア）でも同様の政策が行われました。1989年にすべてのバントゥースタンが消滅しました。

自治区

ヘレロランド（1970年）
カバンゴランド（1973年）
オヴァンボランド（同年）
東カプリビ（1976年、同年にロジに改称、1984年に南アの直接統治に。2002年10月7日にナミビアから独立と、イテンゲ自由国の建国を宣言した）

非自治地域

レホボス（1979年）
ナマランド（1980年）
ダマラランド（同年）
ツワナランド（同年）
ブッシュマンランド（自治政府は設置されず）
カオコランド（自治政府は設置されず）

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