バージェシア

バージェシア (Burgessia)

バージェシアは、およそ5億年前、カンブリア紀に生息していたと考えられている絶滅した節足動物の一属です。カナダのブリティッシュコロンビア州にある有名な化石産地、バージェス頁岩（バージェス動物群）から発見されており、現在までに Burgessia bella というただ一種のみが知られています。バージェス動物群の時代は、カンブリア紀ウリューアン期（約5億1,000万年～5億500万年前）にあたります。

この生物は、その独特な形態と、分類学上の位置が未だ確定していない点から、古生物学において興味深い存在とされています。

形態

バージェシアの全長は最大で1.7cm程度の小さな生物でした。体の主要部は、円形の一枚の背甲（carapace）に覆われています。この背甲は頭部と胴部を一体として保護しており、表面には特別な構造や眼などは確認されていません。しかし、背甲の内部には、体の中心を通る消化管から左右に広く枝分かれした消化腺（digestive glands）が存在していた痕跡が見られます。

背甲の後端中央にはV字型の窪みがあり、そこから一本の長い尾節（telson）が後方へ伸びています。尾節は剣のような形状をしており、途中に明確な分節は見られません。

背甲の下腹部には、多数の付属肢（appendages）が備わっていました。確認されているのは、頭部に由来する一対の細長い糸状の触角と、それに続く11対の脚です。脚は、付け根の節と歩行に適した形をした内肢（endopod）を含め、基本的に7つの節から構成されていました。内肢の基部側の節ほど、内側に突起が発達していたことがわかっています。

脚の構造は、その体の部位によって変化が見られます。ほぼ全ての脚は、付け根の節に外肢（exopod）を持つ二叉型（biramous）の構造をしていますが、最終の1対のみは内肢のみを持つ単肢型（unimarous）であったと考えられています。特に、頭部由来の最初の3対の脚に付属する外肢は、非常に長く細い糸状に特殊化していました。一方、胴部由来の残り8対の脚のうち、前の7対に付属する外肢は平たく広がった鰭状の形をしていました。

生態

バージェシアは海底の表面を移動する底生性の動物であったと推測されています。その食性については、海底の堆積物中に含まれる微小な有機物を食べていたと考えられています。餌を探す際には、頭部の長い糸状の触角や、同じく糸状の外肢を持つ頭部由来の脚が、堆積物を探る役割を果たしたと見られます。

発見した餌は、内肢の内側に発達した突起を用いて把持し、すり潰していたと考えられます。また、胴部由来の脚に付属していた鰭状の外肢は、水中での呼吸を行うための鰓として機能していた可能性が高いとされています。長く丈夫な剣状の尾節については、カブトガニ類が体を裏返された際に元の向きに戻すために尾を使うのと同様の機能を持っていたのではないか、と推測する研究者もいます。

分類

バージェシアの節足動物内部における系統的な位置は、2010年代現在においても未だ完全には解明されていません。1975年のHughesによる研究以降、本格的な再検討はあまり行われていないのが現状です。

過去には様々な分類上の解釈が試みられました。20世紀の初め頃には、その大まかな類似性から甲殻類に属すると解釈され、カブトエビ類やそれに近い鰓脚類に近い生物と考えられていました。しかし、20世紀後半以降になると、このような見解は否定されるようになります。一部の系統解析では、三葉虫や鋏角類との類縁関係が提唱されたこともありますが、その根拠の一部には鋏角類の体制に対する誤解釈が含まれていたため、その有効性は疑問視されています。

頭部に1対の触角と3対の二叉型の脚を持つ付属肢の構成は、三葉虫などに見られる特徴と類似していますが、その他の多くの形態的な特徴が大きく異なるため、単純に三葉虫に近縁とすることも難しい状況です。このように、バージェシアは、その特異な形態と化石記録の性質から、今日に至るまで節足動物の進化系統樹の中で謎めいた存在であり続けています。

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